↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/94

第四十二話 ふたりは冒険者 ハックアンドスラッシュ

 エマが神秘の伝授へ向かった翌日、俺とセラスは王都の冒険者ギルドに来ていた。


 壁一面の掲示板には、王都だけあって依頼の数も多い。護衛、採取、調査、討伐と種類も様々で、上から下まで眺めながら気になるものを拾っては内容を確かめていく。


「護衛はなし。せっかく二人なんだし、誰かに合わせて歩くのは面倒だわ」


「人探しは?」


「もっとなし。前回、それでどこまで話が膨らんだと思ってるのよ」


「人探しが悪いわけじゃないだろ」


「じゃあ受ける?」


「……今日はやめとくか」


「でしょ?」


 勝ち誇ったような顔を向けられたが、別に懲りたわけではない。ただ、ラザームの件で陰謀だの帳簿だのに付き合ったばかりだ。今日はもう少し単純な仕事でいい。


「あ、これなんてどう? 水棲魔獣ケルビーの討伐。近くの村からね」


「現地で討伐確認を受けて、証明書を持ち帰れば完了か」


「行って、倒して、帰る。完璧じゃない」


「それでいこう」


 依頼票を剥がして受付へ持ち込み、手続きを済ませると、そのままギルドを出た。


     ◇


 それから三時間後、俺たちは再び同じ受付の前に立っていた。


「ケルビー討伐の報告だ」


 差し出した証明書は、最初こそ何気なく確認されていたものの、途中で捲る手が止まった。


「……えっ、もうですか?」


「もうって、ちゃんと終わったわよ?」


「いえ、それは証明書を見ればわかるんですけど……」


 村の依頼者による署名も印も入っている以上、討伐を終えたこと自体を疑う余地はないはずだ。


 それでも納得しきれないらしく、証明書と俺たちを何度か確かめたあと、困惑したように眉を寄せられる。


「本当に三時間で往復して、討伐まで……?」


「近かったし、数も大したことなかったわ」


「そういう問題なんでしょうか……」


 何が引っかかっているのか俺にはよくわからなかったが、証明に不備はなかったらしく、そのまま報酬の処理は進んでいった。


 金を受け取る頃には、隣の興味はすでに次の仕事へ移っている。


「まだ全然時間あるわね」


「次もいけるな」


 二人で掲示板へ戻り、今度は俺が依頼を探すことにした。


 しばらく眺めていると、討伐依頼に混じって一枚の調査依頼が目に留まる。


「これだ」


「調査? さっき面倒なの嫌って言ったじゃない」


「ダンジョンに居ついた山賊の討伐前調査だ。人数と武装、それに内部の占拠状況を見てくればいい」


「人間関係を調べるわけじゃないってことね」


「ああ。中を見て帰ってくるだけだ。今度こそ妙なところまで膨らまないだろ」


「……その言い方、ちょっと不安なんだけど」


 確かに似たようなことをさっきも言った気はするが、内容を見る限り今回は本当に内部を確認して戻れば済む。そう判断して依頼票を剥がし、二件目の受注手続きへ向かった。


     ◇


 再びギルドへ戻った頃には、入口付近にいた冒険者たちから一斉に視線を向けられた。


 もっとも、今回は理由を考える必要もない。気を失った大男を肩に担いだまま入ってくれば、嫌でも目立つ。


 そのまま受付まで運び、目の前の床へどさりと転がした。


「調査のつもりだったが、壊滅させてきた」


「…………」


 先ほどと同じ受付嬢は、床に転がった男と俺を何度か見比べてから、ようやく言葉を絞り出した。


「調査依頼……でしたよね?」


「そのつもりだった。向こうから仕掛けてきたんで、気づいたらこうなってた」


 受付前に転がした男へ視線を落とし、そのまま続ける。


「さっきは随分疑われたからな。今回は首領も連れてきた。これなら問題ないだろう」


「生きてるわよ。ちゃんと」


「そういう問題では……いえ、まず確認します。こちらが首領で間違いないんですね?」


「ああ。中の人数も武装も確認した。残りは全員捕縛するか、抵抗した奴は動けないようにしてある」


 依頼そのものの調査項目は満たしている。


 それでも受付嬢は深く息を吐き、額へ手を添えたまま、しばらく床の男を眺めていた。


「調査で壊滅させた場合は、依頼失敗ということはないよな?」


「失敗ではありませんが……」


 否定はされなかったものの、その先をどう続けるべきか迷っているらしい。


 やがて別の職員が何人か呼ばれ、首領は拘束を改めて確認されたうえで、騎士団の詰め所へ引き渡すため運ばれていった。


 依頼失敗ではないなら、こちらとしては問題ない。


「じゃあ次の依頼だ」


「まだ行くんですか!?」


 背後から驚いた声が飛んできたが、もう一件くらいなら時間的にも十分動ける。セラスと並んで再び掲示板の前まで戻った。


「今からだと、どんなに近場でも戻るのは夜遅くなるわね」


「疲れてないなら問題ないんじゃないか」


「そうね、まだいけるわ」


 そのまま次の依頼へ目を移そうとしたところで、少し離れた場所にいた女と視線が重なった。


 腰まで伸びた黒髪の上から狐のような耳が覗き、紫を基調にした見慣れない衣装の後ろには尾まである。向こうもこちらを見ていたらしく、目が合っても特に逸らす様子はなかった。


「だいぶ可愛い娘じゃない。知り合い?」


「いや、目が合っただけだ」


「ふぅん」


 妙に含みのある声を出されたところで、狐耳の女が楽しそうな笑みを浮かべたまま、こちらへ歩いてきた。


「さっき、私のこと見てましたよね?」


「見ていたが、気に障ったならすまない。あまり見ない種族だったもので、ついな」


「あ、そっちなんですね」


「こいつ美人に弱いから。可愛いから見てたのよ。ごめんね」


「勝手なこと言うな」


 そうは言ったものの、別に容姿が目を引かなかったわけでもない。ここで無理に否定する方が不自然だろう。


「それもある。大層な美人で、見ずにはいられなかった」


「えっ、認めるの?」


「あはっ。そこまで素直に言われると思ってませんでした」


 楽しそうな笑い声と一緒に、頭の上の狐耳が小さく揺れた。


「でも嬉しいです。私、サクヤっていいます。ルナールなんですけど、この辺じゃやっぱり珍しいみたいで」


「俺はルクスだ」


「アタシはセラス。よろしくね」


「よろしくです」


 初対面とは思えないほど気安く笑うサクヤの横では、自己紹介を済ませた時点でもう掲示板へ意識が戻っていたらしい。


「あっ! 古戦場のデュラハン討伐があるわよ! 次はコレ!」


「切り替え早いな」


 差し出された依頼票へ目を通していると、すぐ横からサクヤも覗き込んでくる。


「あ、それなら私も依頼にご一緒しても――」


「王都から馬で三日かぁ……」


 距離の記載を確認しながら少し考え込み、今度は同行を申し出かけていた本人へ顔を向ける。


「アタシ達、一日半くらいで強行するけど、それでも来る?」


「え、一日半?」


「大丈夫そうね。じゃ、受けてくる!」


「ちょ、今のどこで大丈夫って――」


 最後まで言わせる気はなかったらしく、依頼票を手にそのまま受付へ向かっていった。


 取り残されたサクヤは笑顔のまま一瞬固まり、その背中を見送ってから、困ったような顔をこちらへ向ける。


「……いつもあんな感じなんです?」


「大体な」


「思ってたより勢いありますねえ……」


 そう話しているうちに、妙に周囲から視線を向けられていることに気づいた。


 ケルビーを三時間で片付け、その次は調査のはずが山賊の首領まで担いで戻った。さすがに今日は騒ぎすぎたかとも思ったが、よく見れば俺ではなく隣を気にしている者もいる。


 理由を掴めないまま眺めていると、受注を終えたセラスが戻ってきた。


「よし、行けるわよ。……でも、せっかく王都にいるのに野営で夕食ってのも味気ないわね。出る前に食事すませてから行くわよ!」


「今から食って、そのまま出るのか」


「そうよ。サクヤも行くのよ。美味しいお店あるなら教えて」


「私もですか? あはは、いいですよ。近くに一軒、好きなお店あります」


     ◇


 案内された店で席につくなり、料理札を手にしたセラスは端から気になるものを拾い始めた。


「お酒三人分ね! あと赤魚の煮込みとフライドポテトと、茹で豆のサラダ。あ、こっちの焼いた肉挟んだパンも!」


「すごい頼み方しますね。順番とか気にしないんです?」


「美味しければいいのよ」


「それはわかります」


 出会ってまだ大して時間も経っていないというのに、妙なところで早くも気が合っている。


 やがて料理より先に酒が運ばれてくると、セラスは待ってましたとばかりに杯を掲げた。


「はい、かんぱーい!」


「かんぱーい!」


 二つの杯が軽く触れ合い、サクヤも楽しそうに酒へ口をつける。


 俺の前にも一杯置かれているが、手を伸ばす必要はない。しばらくすると予想通り、隣から伸びてきた手が当然のようにこちらの杯まで引き寄せ、そのまま中身を減らし始めた。


「あれ、それルクスさんのですよね?」


「飲まないからいいのよ」


「お酒だけじゃなくて、食べてもないですよね?」


「気にするな。場所代代わりに俺の分も注文してるだけだ」


「場所代で一人前頼む人、初めて見ました」


「余ったらアタシが食べるから問題ないわ!」


「それ、最初から狙ってません?」


 疑いの目を向けられてもまるで動じず、俺の分まで含めて並べられた料理へ嬉しそうに手を伸ばしている。


 サクヤもそれ以上気にする様子はなく、笑いながら肉を挟んだパンを手に取った。


 しばらく三人で話しながら食事を進めたあと、赤魚の煮込みを口へ運んでいたセラスが、ふと思い出したように問いかける。


「食べ終わったら、すぐ出られる?」


「大丈夫ですよ。必要な物は持ってますし」


「なら決まり。今から出れば、上手く飛ばして明日の昼くらいには着けるかもね」


 それまで軽快に動いていたサクヤの手が、料理の上で僅かに止まった。


「……あの依頼、馬で三日って書いてませんでした?」


「馬ならね」


「その言い方、ちょっと嫌な予感するんですけど」


 俺とセラスを交互に見比べながらも、その表情から楽しそうな色までは消えていない。


 少なくとも今のところ、この妙な一行から逃げ出すつもりはなさそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。