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消えゆく命

(……花鈴?)


 頭の奥で、確かに声が弾けた。


(マイヤ……?)


 互いの名を呼ぶ声が、重なる。


 同時に眩い閃光が頭の中で弾けた。


 二人の意識が重なり合う、深い蒼光に満ちた精神の領域にいつしか辿り着いていた。


 蒼光に慣れたころ、目がその世界の輪郭を捉える。そして、花鈴とマイヤは、互いの姿をはっきりと捉えた。


 そっくりなのに、纏う色がまるで違う──

 

 視線が重なった瞬間、二人の胸の奥が熱で満たされる。


 ――ああ。

 ――やっと、会えたね。


 二人は、どちらからともなく歩み寄り、互いが互いを抱きしめた。


 存在を知らなかった十五年。


 理由も分からないまま背負ってきた孤独。


 それらすべてが、一気に溢れ出す。


(花鈴に、伝えなきゃ……私が知り得たことを……)


 そして、マイヤが静かに切り出した。


「花鈴、私たちのつながりが分かったわ」

「本当?! アレックスと一生懸命調べたけど、そこがどうしても分からなかったの」


 マイヤは、花鈴の手を取り伝えた。


 あの日、金森神社で知った「答え」――御神木が二人の魂を入れ替え、それはもう戻る事はないことを。


(……マイヤは、青森でこれを知ったのね。一人で抱えるには重過ぎる事実を)


 聴き終えると花鈴は、マイヤに抱きついた。


「衝撃だったわよね。一人でそんな思いをさせてしまって……」

「花鈴のせいじゃないわ。それに……哲司が居てくれた」

「哲司が……」


 花鈴は、それを聞いて嬉しくなった。あの優しい幼馴染が、マイヤの側にいてくれた。


 二人は顔を見合わせて微笑んだ。


「花鈴も、さっきアレックスって言ってた」

「そうなの! アレックスが私の力になってくれて。そうだわ! 私たちは「扉」について調べたの」


 そう言って今度は花鈴が、「扉」について語った。


「ただ……条件の詳細は、まだ分からないけど……」


 マイヤが、唇を噛んだ。


「そうだったのね。つまり……私たちは、魂を入れ替えられて、扉まで越えた」

「二度も、世界に選ばれたってこと?」

「それとも……呪われたのかな」


 その瞬間。


 空間が、軋む。光を伴う波動が空間に響き、その中に、小さな影が現れた。


「猫……?」


 花鈴は、思わず呟いた。


 親指ほどの小さな猫が、宙に浮いていた。

だが、その瞳は――この世界すべてを見渡してきた者の光を宿している。


「おお、ようやく繋がったか」


 その声を聞いた瞬間、マイヤの内側で何かが軋んだ。


「え……御神木さま……?」


 マイヤが呟くと、猫は、二人を見比べるように、ゆっくりと視線を動かした。


「いかにも。わしはかつて御神木と呼ばれていた」

「やっぱり……」


 猫は、満足そうに頷く。


「そしてわしが、お主らの魂を入れ替えた張本人じゃ」


 驚きは、あった。


 けれど、それ以上に――胸の奥で、奇妙な納得が広がっていく。


「巫女が伝えた通り……わしの命は、もう尽きる」


 猫の声が、急に弱まる。


 小さな身体がふらりと揺れ、光の粒子が零れ落ちる。


「わしが死ねば、この世界の理がまた一つ消える。その前に……奇異な運命を辿る二人に……伝えておきたいことがある」


 零れ落ちる光を見つめながら、二人は同時に理解した。


 これはただの再会ではない。

 「選択」の始まりだ。


 光に包まれながら、猫は告げる。


「さあ、聞け。お主らが産まれるずっと前から存在する「理」と、わしの役目の話を……」


 その言葉が終わるより早く、御神木の身体に走った光が、突如として乱れた。


 猫は、力なく、辛うじてその姿を保っているのが分かった。


 花鈴とマイヤの中に、未知への不安が駆け巡る。


 ――「理」って何?

 ――「役目」って何なの?

 ――私たちは、これからどうなってしまうの?


 怖い!!

 ――でも、知りたい!


 花鈴とマイヤは、視線を交わす。迷いは、なかった。


「……聞かせて」


 世界が軋む音の中で、二人は、決して目を逸らさなかった。

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