運命の双子
花鈴とマイヤーー二人の覚悟を決めた眼差しが、今にも消えそうな猫の御神木を射る。
足元には水面のような揺らぎが広がり、波紋のように静かに呼吸していた。
親指ほどの小さな猫――かつて「御神木」と呼ばれ、人々に祀られた存在は、時折乱れる光をまといながら、ゆっくりとマイヤの手のひらへ腰を下ろした。
「さて……まずは二人に深く関わる話から始めるとしようかの」
後ほんの少しで尽きる命を感じさせないほど重い声が、蒼い空間全体に響く。
「もう知っておろう……わしがなぜ猫の姿をしているのか」
問いかけに、マイヤが静かに答えた。
「……金森神社の巫女様が、御神木様の枝で猫を彫られたから、ですよね」
猫は尻尾をゆっくり揺らし、澄ました声音で返す。
「その通りじゃ。わしは、昔々あの神気に満ちた土地、つまり金森神社の境内に根を下ろした。小さな若木から時を重ね大樹と呼ばれるようになり、いつしか不思議な力を得て御神木と呼ばれるようになった……」
その金色の瞳が、二人を見据える。
「しかし十五年前、落雷に打たれ、わしの本体は焼け折れた。命は……終わるはずじゃった」
そこで、猫の顔がなんとも懐かしそうにほころんだ。
「――だが、わしの力がまだみなぎっていた昔、五十年くらい前じゃろうか……わしに登って遊び、枝を折った腕白坊主がいた。お主らの祖父に当たる者じゃ」
「え? おじいちゃんが!?」
花鈴は驚きの声を上げ、思わず身を乗り出した。
「そうじゃ、花鈴。お主らの祖父が子供のころ枝を折ったことで、わしの力の一部がその枝に残っていた。それがなければ、今こうして会うことなど出来なかったじゃろう」
花鈴は、胸の奥から込み上げる想いに涙ぐんだ。
(おじいちゃんが、この機会を授けてくれたのね……)
「私も、会ってみたかったわ。……おじいちゃんに」
マイヤがそう言って花鈴の腕を摩る。その優しい温もりに勇気付けられた。
猫は、そんな2人の姿を満足そうに眺めた。
「さて、次はわしの能力の話をしようかの。わしは、人には触れられない部分に、関与することが出来るのだ」
「……どういうこと?」
「つまり、魂が見える。そして、動かすことが出来るのじゃ」
猫は、ゆっくりと尻尾を振った。
「不思議な力に気づいた頃、わしは後先考えずに、これから生まれる子どもたちの魂を取り替えた。何故そんなことが出来るのかも分からなかった頃の話しじゃ……」
マイヤが喉をゴクリと鳴らす。
「気ままに取り替えた魂と器は……融合せずに壊れてしまった…」
花鈴が思わず口に手を当てる。
「死んでしまったってこと?」
「そうだ……。産まれて来れなかったり、異形になったりした」
「そんな! 酷い……」
思わず声を荒げる花鈴に、猫は澄んだ瞳を向け、続けた。
「経験を積む毎に上手くなり、やがてはっきりと適合する魂を見分けられるようになった。しかし、そんな魂はなかなか見つからない。だから、わしは、本体から離れ風に乗りありとあらゆる場所へ出向いた。この地球上だけでなく、別次元に存在する異世界までも。――そして見つけた。お主ら2人の魂を」
猫は、2人を感慨深げに見つめた。
「思った通り……本当に、そっくりじゃ。不思議なことに、融合に成功した二人は、必ずそっくりな外見になる。――マイヤの器に花鈴の魂、花鈴の器にマイヤの魂。本来なら、決して出会うはずのなかった二つの魂が今、こうして向かい合っておる。まるで運命の双子のようじゃ」
「「運命の双子??」」
二人の声はピッタリと重なって、空間に木霊した。
その体から、きらきらと光の粉が舞い上がる。
「どうやら時間が迫っておる」
マイヤが震える声を絞り出し、胸につかえていた疑問を口にする。
「教えてください……上手く融合出来たからって……私は、結局誰なんですか?」
猫は静かに問い返す。
「マイヤ――お主は、自分を誰だと思う?」




