キスで繋がるブレスレット
ベッドに倒れ込むと、花鈴はぼんやりと天井を見つめた。
(魔力が強いほど良いとは限らない……か)
思えば自分も、感応の力で他人の悪意を受け取って苦しんだことがある。それに、アレックスも、幼い頃の魔力の暴走で光を失ったと言っていた。
(確かに……力が大きいというのは、それだけ負担も大きい。それでも――)
窓の外、夜空にはオーロラが広がっている。薄青と緑が舞い、天を染めていた。
(ジャッキーを親元に戻してあげた私のアレックスは……やっぱり優しい人だわ)
そこまで思ったところで、
(――「私のアレックス」って、何?! )
花鈴は枕に顔を埋めて左右にゴロゴロ。
(やだ、私ったら! 恋人でもないのに! でも私は……アレックスが……)
胸の奥に、はっきりとした言葉が浮かぶ。
(……好き……)
花鈴は、ずっとどこかで抑えてきた気持ちが、いよいよ名を持ったことを認めざるを得なかった。
その感情を胸に、ブレスレットのビーズに唇を落とした。触れたビーズが、蒼く柔らかい光を帯びる。
「花鈴……か?」
「えっ……!? 私、とうとう幻聴が……?」
「何を言っている。私だ」
アレックスの声だ。確かに、はっきりと。
「ア、アレックス……?」
「そうだ。今ハンプルトンにいる。結界の補強を終えたところだ」
「よかった! 無事なのね!」
「ああ。サラマンカラン軍より先に動けた。花鈴は、何をしていた?」
「わ、私は……」
花鈴は、ついさっき好きだと自覚したばかりで、急に胸が熱くなり、言葉に詰まった。
「そ、それより……どうして今、話せてるの?」
「花鈴の感応の力だろう。このブレスレットが媒体になったようだ。私が触れた瞬間――繋がった」
「私も……さっきブレスレットに口付けして……あ、違っ……その……!」
慌てて誤魔化そうとすると、アレックスが少し黙り、呟くように言った。
「……花鈴を思って、触れた」
「え?」
「当然だろう?」
「もしかして……アレックスもキスしたの?」
「…………」
「したの?」
「…………」
沈黙が肯定そのものだった。
花鈴は顔が熱くなり、胸がきゅっとなった。
「ゴ、ゴホンッ。とにかく、お互い無事で良かった」
急に話を戻したアレックスに、花鈴は思わず笑った。
その笑みは、ここ数日でいちばん自然で、暖かかった。
(アレックス……優しい声……)
生きている世界は違う。立場も違う。婚約者がいるという現実もある。それでも。
この人の声が聞こえるだけで、心はこんなにも安心する。花鈴の心を縛る見えない鎖が、音もなく静かに消えて行った。
その夜、花鈴はここ数日の不安が嘘のように、深い深い眠りについた。




