クッキーと攻撃魔法
最近の花鈴は、気付けばいつもネックレスを握りしめていた。
(落ち着かなきゃ……落ち着かなきゃ……)
焦りは焦りを呼び、心の乱れは思念の波を妨げる。
マイヤを探ろうとしても、あの懐かしい波動は全く捉えられない。
「せめて……マイヤと話せたら……」
ぽつりと呟いた時だった。
パァン——。
乾いた破裂音が園庭の方から響いた。
花鈴は驚き、窓辺に駆け寄った。
「……え?」
赤毛の少年が、屈託のない笑顔で木の枝に向けて指を構えている。次の瞬間、閃光が走り、枝についた氷柱が砕け散った。
パァン、と再び音が響く。
「どういうこと……?!」
花鈴は三階の私室から、ほとんど駆け降りるように階段を下りた。
* * *
園庭の端では、さきほどの赤毛の少年が、砕けた氷を箒で掃き集めていた。
「こんにちは」
声をかけると、少年は振り返り、無邪気な笑顔を向けてきた。
前歯が二本欠けているのが愛らしい。
「こんにちは。お嬢様」
「ねぇ、今の光……何?」
「あの、今の……とは?」
「あなたの指先から光が出て、パァンって……砕けて……」
我ながら語彙力が足りないと花鈴は頬を赤らめたが、少年はすぐに察したようだ。
「ああ、遠隔当てのことですか?」
「それ! それを教えてもらえないかしら?」
その時——
「おーい、ジャッキー!」
低い声が園庭に響いた。
「あなたのこと?」
「そうです! お父さんです」
花鈴が振り返ると、グレッグが慌てた様子で歩いてくるところだった。
「おや、マイヤリリス様。息子が何か粗相でも……?」
「息子さんだったの?」
「はい。たまに庭掃除を手伝わせておりまして……」
花鈴は勢いよくジャッキーの遠隔魔法の習得を願い出た。
「いや、しかし……お嬢様に攻撃魔法など……」
「でも、あなただって私に、攻撃訓練してくれているじゃない」
「お嬢様、あれは主に防御訓練でして」
「身を守るには両方必要だと思うの」
戸惑うグレッグに、花鈴は引かなかった。
「今の私にはどうしても必要なの。お願い、グレッグ。ジャッキーに教わりたい。お礼に、クッキーを焼くわ。ジャッキーが喜ぶようなの」
口下手なグレッグは、完全に言い返す術を失った。
ジャッキーはぱあっと顔を輝かせ、花鈴の手を両手で包んだ。
「本当に? お嬢様にクッキーを?!」
「ええ、もちろん」
嬉しさで頬を染める少年を見て、花鈴の胸に、久々に小さな光が灯った。
――私にもできることがある。
――アレックスがいない間、ただ待っているだけなんて、いや。
(絶対に強くなる。そして、アレックスを迎えに行けるように……)
花鈴はネックレスの緑の石にそっと触れた。
その奥で、アレックスの魔力が静かに脈打つように温かく、彼を思うたびに胸の奥が締め付けられた。




