一瞬だけ繋がった波動
「では、まずは軽く弓から始めましょう」
「軽く……?」
渡されたのは、しっかりとした重さのある弓と矢三本。
花鈴が一本をつがえようとすると、グレッグは無言で首を横に振った。
「三本同時です。もちろん」
「同時!?」
言うより先に、グレッグは三本の矢をまとめて弓に引き絞った。
バシッ バシッ バシッ!
放たれた矢は一直線に飛び、それぞれ三つの的へ寸分たがわず命中した。
(……え? これ、軽くって言うの?)
続く体術の訓練では、花鈴は何度挑んでもグレッグの腕を振りほどけなかった。
剣術でも棒術でも、結果は同じだった。
花鈴は運動が得意だ。
青森ではファットバイクで雪山をどこまでも走り、スキーもスノボもできる。山歩きも慣れているし、狩猟経験だってある。
だが――
(レベルが違いすぎる……!)
これは貴族の嗜みとかではない。命を懸けてきた者の技術だ。
(こ、これをマイヤは続けて来たっていうの?)
マイヤは、蝶よ花よと育てられた侯爵令嬢とは違うことを分かっているつもりだった。しかし、自分と同じ十八歳の予想を遥かに超えた立場の重さに、花鈴の胸は痛んだ。
しかし、自分の胸の痛みに向き合う間もなく、過酷な訓練は続いた。
訓練の終わり、グレッグは額の汗を拭いながら真面目な顔で言った。
「儀式で体力が落ちているようですが……筋は良い。鍛え甲斐があります」
(絶対別人だってバレてる。でも指摘しないでくれてる……。ありがたい……)
花鈴はぐったりとその場に座り込み、心から現実逃避したくなった。
* * *
「はぁ……生き返る……。ありがとうリース。今夜はぐっすり眠れそう」
リースが寝室にスズランの花瓶と、眠りを促す香を置いた。
「お嬢様のお好きなスズランです」
「え……これって咲いてる時期なの?」
「もちろんですわ。スズランは一年中咲いております」
(一年中……? 日本では春の花なのに……)
不思議だと思いながらも、花鈴は花に手を伸ばした。
――その瞬間。
(……あれ?)
指先に、微かな波動が走った。
ここ数日、花鈴は「感応」を使い、必死にマイヤへ思念を送っていた。
けれど、いつもどこかで弾かれてしまい、届かなかった。
だが今――このスズランから、懐かしい波動が立ち昇った。
(知ってる……? この感覚……)
胸がざわりと震えた。
(マイヤ――)
心の中で呼ぶ。
すると。
(「花鈴? 花鈴なのね!? どこのいるの??」)
マイヤの声が、はっきりと頭の中に響いた。
「?!」
花鈴は思わず立ち上がった。
(「私は……ノールヴァルドよ!」)
急いで返そうとした――その瞬間。
ぷつん。
糸が切れたように、波動が消えた。
「……嘘。なんで?」
花鈴は何度も感応を試みたが、繋がらなかった。
苦しくて、切なくて、何もできなくて。それでもどうしようもなくて。
夜は深まり、オーロラは静かに揺れ続けた。




