↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/46

ノールヴァルドの花鈴

 ノールヴァルドの空には、このところ毎夜のようにオーロラが揺れていた。


 青や緑の光の帯が王都の上を流れ、空気そのものが魔力を含んでいるように煌めいている。

 けれど——その幻想的な光景を前にしても、花鈴はそれどころではなかった。


「いたたた……リース、そこ、もうちょっと優しく……っ」

「申し訳ございません、お嬢様。このくらいはいかがでしょう?」


 リースの手は丁寧で、ほんのりと温かい。それでも花鈴の身体中の筋肉は、毎日の訓練でパンパンに張っていた。


「ふぅ……だいぶ良くなった。ありがとう、リース。今日も生き延びたわ……」

「まぁお嬢様。まるで戦場でございますね」

「戦場なのよ、実際……!」


 午前はアレックスとの魔力量計測と感応制御の訓練。

 午後は護衛隊長グレッグによる体術・剣術・弓術・棒術のフルコース。

 この一週間、花鈴はほぼ毎晩、こうしてリースのマッサージのお世話になっていた。


 * * *


 ことの発端は、アレックスの何気ない一言だった。


「魔力は心の状態に大きく左右される。つまり精神を鍛えるには、身体を鍛えるのが最も効果的だ」

「心と身体って、魔力とも関係あるの?」

「もちろんだ。私は毎朝、必ず訓練をしてから仕事に入る。……マイヤもそうだった」


 花鈴は思わず食いついた。


「えっ、マイヤも身体の訓練してたの?」

「やむをえず、だがな。彼女は王太子殿下に命を狙われていた。魔力を持たない身で生き残るには、戦闘技術が必要だった」


(……マイヤって、そんな状況で生きてきたの?)


 花鈴が驚いていると、アレックスは少し苦笑した。


「護衛隊長グレッグに、容赦なく鍛えられていたよ」

「グレッグって……背が高くて、クマみたいにガッチリした、あの?」

「表現は的確だな」


 思わず頷くアレックス。

 花鈴は以前、厨房を借りてクッキーを焼き、護衛隊に差し入れたことがあった。

 グレッグは大きな手で小さなクッキーをつまみ、「美味い」と不器用に褒めてくれた男だ。


(あのグレッグさんが、マイヤの師匠……!)


 その瞬間、花鈴の胸の奥に火がついた。


「わたしも受けてみたい!」


 アレックスは珍しく明確に動揺した。


「……花鈴。それは、かなり、辛いぞ?」

「大丈夫よ。マイヤだってやってたんだから!」


 気圧されたアレックスは、翌日すぐにグレッグへ指示を出した。


 ――そして、花鈴は後悔することになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。