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「愛など不要ですから。お気をつけて」  作者: あとりえむ


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第23話

海賊船の黒い船体が激しい衝撃音とともに私たちの商船に接舷されると、怒号と歓声が入り混じった声とともに、無数の黒い影が甲板へと雪崩れ込んできた。


刃こぼれした曲刀や無骨な斧を振り回し、手慣れた動きで船を次々と制圧していく荒くれ者たち。


船長や商会の護衛たちも必死に武器を取って応戦したが、血の匂いに染まった本物の海賊が振るう圧倒的な暴力の前には、あまりにも無力だった。


一人、また一人と甲板に血を流して倒れ、あるいは乱暴に縄で縛り上げられて拘束されていく。


逃げ場のない海の上でこのまま無駄な抵抗を続ければ、人的被害が拡大するだけでなく、大切な商品である積荷や船体への損害も取り返しがつかない規模になってしまう。


私の冷徹な商人の頭脳は、この絶望的な状況下でも一瞬にして損益分岐の計算を弾き出していた。


これ以上の出血は、ただの丸損だ。


私は船室の影からゆっくりと歩み出ると、血に飢えた海賊たちの前に毅然とした態度で立ちはだかった。


上質な絹のドレスの裾を優雅に揺らし、一切の怯えを見せずに彼らを真っ直ぐに見据える。


荒れ狂う海上の惨劇の中、あまりにも場違いな私の堂々たる姿に、略奪の興奮に沸き立っていた海賊たちが一瞬だけ毒気を抜かれたように動きを止めた。


「無抵抗の者への無用な暴力は控えなさい。この私を誰だと思って?」


氷のように冷ややかな声で言い放ち、私は抵抗することなく自ら拘束される道を選んだ。


すべては、この理不尽な略奪劇から莫大な慰謝料を回収するための、最初の布石に過ぎない。



◇ ◇ ◇



海賊たちの乱暴な手によって商船の積荷は次々と奪われ、私自身もまた最高級の戦利品の一つとしてゲイルズ海賊団の船へと移された。


放り込まれたのは、ひどいカビとネズミの死臭が鼻をつく、薄暗く不潔な船底の倉庫だった。


冷たい板張りの床に突き飛ばされ、重い扉が外から施錠される音が響く。


普通の令嬢であれば、暗闇の中でただ震えていることしかできないだろう。


だが、私はマイヤー商会の会頭だ。不当に商品価値を奪われたまま、ただ泣き寝入りして丸損を受け入れるつもりなど毛頭ない。


私はドレスの汚れなど気にも留めずに立ち上がり、暗闇に目を凝らして周囲を冷静に観察した。


そこには、私の商船から略奪された見覚えのある品々が無造作に積み上げられている。


その乱雑な山の中から、私はアラバナの市場で買い付けたばかりの『星屑貝の防水油』の小樽を的確に見つけ出した。


そして次に、私は床を這うようにして手探りで船底の状態を慎重に確認していく。


この特殊な防水油は、夜の海水に触れると青白く発光する。もし船底の低い位置に溜まった汚水、つまり海水が混ざったビルジ水に直接油をぶちまければ、船内で煌々と光を放ち、すぐに見張りの海賊たちに勘付かれてしまうだろう。


私が探すべきは、海水が完全に乾いていて、なおかつ木板の隙間を埋めている防水用のタールが劣化している箇所だ。


古い海賊船の壁際を指先で丹念に探り、私はついにタールがひび割れ、カサカサに乾ききった継ぎ目を見つけ出した。


「……ただで奪えると思ったら大間違いですわよ」


私は暗闇の中で冷たく微笑むと、そのひび割れた隙間に向けて、樽の油を静かに、しかし一滴残らず染み込ませていった。


劣化した古いタールとこの特殊な油の親和性は極めて高い。海水が侵入するような大きな穴など空いていなくとも、微細な隙間のタールを毛細血管のように伝い、油はじわじわと船の外側へと浸透していくはずだ。


船内では決して光らず、船の外側の海水に触れた瞬間にだけ光を放つ完璧な仕掛け。


戦地にいる仕事バカな夫には、この油の性質を話してある。今回の事態が伝われば、私の意図に必ず気づいてくれるはずだ。


古い船底から絶え間なく外の海へ滲み出す防水油は、海賊たちに気づかれることなく、確実な反撃の道標となって波間に刻まれ始めていた。

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