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「愛など不要ですから。お気をつけて」  作者: あとりえむ


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第22話

アラバナの港を出発した直後、航海は順風満帆そのものだった。


買い付けた莫大な香辛料と手土産を乗せた商船は、南方の穏やかな風を帆に受け、デミウス副官の率いる護衛艦と共に滑るように海を進んでいた。


しかし、順調な旅程は特有の気候を持つこの海域の気まぐれによって、突如として牙を剥いた。


「奥様、船室へ!急激に気圧が下がっています、大嵐が来ますぞ!」


甲板で潮風に当たっていた私に向かって、隣を並走していた護衛艦からデミウス副官が声を張り上げた。


その言葉とほぼ同時に、それまで抜けるように青かった空が、まるで黒インクをこぼしたかのような分厚い雲に覆い尽くされる。


昼間だというのに周囲はたちまち不気味な闇に包まれ、直後に鼓膜を破るような轟音が海を震わせた。


猛烈な突風がマストを悲鳴のように軋ませ、山のように巨大な波が容赦なく商船を打ち据える。


船長や船員たちの必死の怒号が飛び交う中、私は船室の柱にしがみつき、荒れ狂う大自然の暴力に翻弄される船体をただ耐え忍ぶしかなかった。


どれだけ完璧な物流網と利益率の計算式を構築しようとも、海という予測不能な大自然の猛威の前では、人間の力などあまりにもちっぽけだ。


地獄のような嵐は数時間にわたって吹き荒れ、私たちの船を激しく叩きのめした。


やがて風雨が落ち着き、狂ったような波が嘘のように静まり返った頃には、さらなる不穏な状況が私たちを待ち受けていた。



「……護衛艦の姿がありません。それに、羅針盤が狂っています」


血の気を失った船長が、震える声で私に告げる。


嵐の後に海域を覆い尽くした乳白色の濃霧は、まるで巨大な化け物のように船を飲み込み、視界を完全に奪い去っていた。


頼みの綱である羅針盤の針はぐるぐると意味不明な回転を繰り返し、方角の判別すらつかない。


頼もしいデミウス副官の軍艦とは完全に分断され、私たちの商船は音のない不気味な白い闇の中へ、たった一隻で孤立してしまったのだ。



◇ ◇ ◇



不気味なほどの静寂が、濃霧に包まれた海を支配していた。


波の音すら吸い込まれてしまいそうな白い闇の中で、船員たちは固唾を飲んで周囲を警戒している。


護衛艦とはぐれ、航路もわからない状況での孤立は、海の恐ろしさを知る彼らにとって死の恐怖に等しいものだった。


「奥様、霧が少し晴れてきました。あちらに船影が……護衛艦かもしれません!」


見張りの船員が安堵の声を上げ、指差した方向へ全員の視線が集中する。


乳白色のヴェールがゆっくりと引き剥がされるように、霧の奥から一つの巨大な影が音もなく滑り出してきた。


しかし、その姿が鮮明になるにつれ、甲板にいた船長たちの顔から急速に血の気が引いていくのがわかった。


霧の中から姿を現したのは、海軍の誇り高き白い軍艦などではない。


嵐の余波が残る荒海を平然と切り裂く鋭い船首と、禍々しい漆黒の帆を掲げた、不気味なほど足の速い高速船だった。


「ば、馬鹿な……こんな海域にまで、なぜ奴らが……!」


「ゲイルズ海賊団だ!総員、武器を取れ!接舷されるぞ!」


船長の絶望に満ちた叫び声が、静寂の海に響き渡った。


この南方海域で最も恐れられ、泣く子も黙ると噂される凶悪な海賊団。


彼らの船は、まるで獲物を狩るサメのように滑らかな動きで、私たちの商船の横腹へとピタリと張り付いてきた。


黒い船の甲板には、血に飢えた獣のような笑みを浮かべ、無骨な剣や斧を手にした荒くれ者たちがびっしりと立ち並んでいるのが見える。


頼みの綱であるデミウス副官の軍艦はいない。


圧倒的な武力を持つ海賊たちに完全に包囲され、逃げ場のない海の上で、私たちの商船は完全に死に体となっていた。


「……厄介ごとに巻き込まれて損を出すな、ですか」


出立の朝に夫からかけられた不器用な忠告を思い出し、私は静かに目を閉じた。


絶体絶命の危機。


果たして私は、この絶望的な状況からいかにして利益を回収すべきか。


商人の頭脳をフル回転させながら、私は迫り来る海賊たちの怒号を冷ややかに見据えていた。

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