残像 その2 救命措置
日曜日で天気も良い。駅とショッピングモールを繋ぐ歩行者デッキは、人で埋め尽くされていた。
由衣と大樹は流れに乗って映画館へ向かった。
二人がチケット売り場に並んでいると、外の方から、ざわめきが波のように押し寄せた。
「どうした?」
「おい!」
「大丈夫か!」
「痙攣してるぞ」
「通報しろ!」
「救急車!」
などと緊迫した声が重なる。
「行かなくちゃ」
大樹がすぐさま声を上げた。
二人が外に出ると、歩行者デッキの一角に人だかりが出来ていた。
かき分けて中に入ると、男が一人、仰向けに横たわっていた。
「僕がやる」
大樹は男のそばに膝をつき、呼吸と脈を確認する。
次に胸骨圧迫を始めた。両手を重ね、正確な位置に、一定の間隔と無駄がない。
由衣は、周囲を見回す。
「AEDは!?」
人の隙間を縫うように走り出す。
数十秒後由衣は、赤いケースを抱えて戻ってきた。
「AEDよ」
大樹は圧迫を続けながら、指示音に従って電極パッドを胸部に装着する。一定の間隔で電気ショックが作動する。その合間に胸骨圧迫を再開する。
大樹が疲れた様子を見せると、由衣が交代した。
やがて、サイレンの音が近づき、デッキの真下で大きく反響し、ふっと途切れた。
ほどなくして、救急隊員が駆け込んできた。
二人から手際よく引き継ぎ、男はストレッチャーに乗せられた。
「助かるといいわね」
「うん」
ストレッチャーを二人が見送っていると、横から声が上がった。
「ぶったまげた! また君達かい」
口をポカンと開けた米田刑事と、目を丸くした靑山刑事が突っ立っていた。
由衣は得意げな顔を振り向ける。
「米田さん、あたし達が救命処置やったんですよ」
「そうですかい! 助かりゃ人命救助で表彰もんだぞ」
米田刑事は笑顔を向けて頷き、すぐに顔を引き締めた。
「ともかく見たことを話してくれんか?」
「チケット売り場に並んでいたら、外から騒ぎ声が聞こえました。人だかりをかき分けたら、男が倒れていました」
「うんうん」
「救命処置の前に見たのはそれくらいです」
「そうかい……。ありがとう。で、福光さんは他に何か?」
米田刑事は大樹に顔を向ける。
「倒れていた男は、僕達の前を歩いていたと思います」
「ほおー! そのとき何か見たかい?」
「残像を思い出して描いてみないと、説明できません」
「残像って何だい?」
「それは、脳に記憶された映像で……」
言葉に詰まる大樹を見て由衣が割り込んだ。
「米田さん、他に目撃者が大勢いるし、彼の話を聞くのは後にしてくれません?」
「だがな、時間が経つと人の記憶ちゅうもんは……」
「彼は、その点は問題ないです」
「ん?」
「彼は、ひと月ほどなら、場合によっては十年でも、目に入ったイメージを正確に記憶しています」
「信じられん……」
「彼はそれを残像って言ってます。描いてみないと、説明できないんだと思います」
「うーん……、よくわからんが、サイパン症ってのはそんなもんか」
「サヴァン症候群だって……。何度言ったら」
青山刑事が米田刑事の袖を引いた。
「班長、福光さんは後にしましょう」
大機の聴取は後で連絡を取ることになり、米田刑事ら数人の刑事は、周囲の人達に聴取を始める。
人だかりは程なく分散し、ざわめきは徐々に収まっていった。
米田刑事らが立ち去った後、由衣が質した。
「大樹、今日、映画見る? 初回逃したから一時間くらい待つけど」
「ごめん、今日は見る気が失せちゃった」
「あたしもそう。疲れたし、帰る?」
「うん」
二人は駅に向かってた歩き出した。
「ところで、佐藤さんに救命処置しなかったのは、無駄ってわかったから?」
「うん、指先が何かを掴むような形で硬直し、死斑もあった」
「凄いわね。さすがはサヴァン」




