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見える僕と理解する君  作者: 芳里 匡喬


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夏空 その3 BB弾

高見沢家のリビング、ソファーに身を預け、寛太を抱いた由衣が、ふと眉をひそめた。

「ねえ、寛太のこの辺、深くて分かりにくいけど、何か固いものがあるの」

隣に座る大樹が、右脇腹の毛の奥を探った。

「ほんとだ! 小さくて丸いものがある。傷跡もあります」

「え、傷跡?」

「うん。かなり古い。治りきってるけど、組織が硬くなってる」

大樹はさらに深く探る。寛太は小さく「ニャ」と鳴いた。


「病変というより……異物の感触です」

「異物って……何?」

由衣は思わず寛太を抱きしめる。

「BB弾かもしれない」

「何それ」

「サバイバルゲームなどで使うエアガンの弾です」


由衣の顔から血の気が引いた。

「それって、寛太、撃たれたってこと?」

「断定はできないけど、形状は一致します。この深さは、近距離で撃たれた可能性が高いです」

由衣の怒りを含んだ声がこぼれる。

「ひどい! そんなことする人、いるの?」」

「います。意図的か遊び半分かは別として」

「英真君の絵、あれ、もしかして」

「エアガンで撃たれているネコ達かも知れない」


由衣が腹の辺りを撫で回し、寛太は不満げに身をよじって逃げ出した。

「そうそう、佐藤さんが、散歩中に子ネコを拾ったって言ってた。その子が寛太よ」

「いつ頃ですか?」

由衣が立ち上がった。

「……確か、あたしが小六の夏休み直前。ちょうど英真君が行方不明なった頃」

「英真君が見たネコ達の中に、寛太がいたのかも知れません」

「確かめる。お兄ちゃんに連絡する」

由衣はスマホを取った。




ほどなくして、由衣と大樹は、迎えに来た米田刑事と青山刑事の車に乗り込んだ。

キャリーバック中から「ニャーニャー」鳴き声が聞こえる。寛太は大嫌いな動物病院に連れて行かれると感づいていた。

車は、かつて毒入り団子事件で、警察が猫の解剖を依頼した動物病院へと向かった。

「米田さん、まだBB弾かどうか分からないですよ」

由衣が助手席に座る米田刑事に声をかけた。

「いいんだ、いいんだ」

米田刑事は軽く手を振った。

「俺達は桧山がやったと睨んでいる。だが奴は尻尾を出さない。証拠もない。やっぱり福光さんは俺達のヒーローだなー」

即座に由衣が噛みついた。

「何度言えば分かるんですか! 大樹はあなた方のお仲間じゃありません!」

「高見沢さん、済みません」

運転席の青山刑事が苦笑しながら割って入る。そして、米田刑事に苦言を呈した。

「班長! 一度ならず二度までも。”鶏は三歩あるくと忘れる”ですよ」

「はあー……お前も、生意気な口をきくようになったなー」




動物病院、獣医師が、寛太のレントゲン写真をモニターに映す。

「確かにここに丸い玉がありますな。それもけっこう深いところに」


遅れて駆け付けた康太が声をかけた。

「では先生、摘出お願いします」

「あたし、ここ出る。見てられない」

「僕は残ります。寛太が不安になるから」

「……ありがと」

由衣は短く頷き、足早に処置室を出た。


麻酔が利き、寛太の泣き声が止まる。

大樹、康太、米田刑事、青山刑事が見守り、鑑識がカメラを回す。

脇腹の毛が剃られ、古い大きな傷跡が現れた。それは単なる“遊び”では済まされない衝撃を物語っている。

消毒後、メスが入る。やがて、ピンセットで摘まれた小さな球体が、金属トレイに落とされた。

「これです」

それは、紛れもなくBB弾だった。




科捜研にBB弾、レントゲン写真、手術中の動画が送られた。結果、発射後の距離が1メートル以上であれば、銃刀法規制対象の準空気銃の可能性が高いとの報告が得られた。


捜査本部は、突破口を開くために、まずは銃刀法違反容疑と動物愛護法違反容疑で、裁判所に桧山家の家宅捜索を申請する準備に取り掛かった。


大樹が英真君の絵を説明する動画が撮られ、埼玉県立医療大学の脳神経内科・医学博士・武藤教授のもとに送られた。サヴァン症候群特有の観察力と認知の特性に基づく分析として、その妥当性について専門的な所見を得るためだ。


レントゲン写真および手術記録映像、BB弾の写真、それらの科捜研の鑑定報告、英真の絵の写真、大樹の絵の解析動画、武藤教授の意見書、康太が推定した家屋の要件、以上が家宅捜索申請書に添えられた。

点だった情報が、一本の線へと収束し始めていた。




証拠隠滅の恐れがあり、裁判所は翌日に家宅捜索令状を発行した。

捜査員と鑑識官が一斉に桧山家げ踏み込んだ。


桧山家の裏庭が掘り起こされ、大小二体の猫の白骨が発見された。さらに陶芸工房の床下が掘られ、推定十歳から十二歳の子供の左足子指の白骨、同所から推定生後三か月のネコの尾骨の一部、直径六ミリのBB弾五個が発見された。


子供の指骨は英真君の白骨と、子猫の尾骨は英真君と共に回収した子猫の白骨と、それぞれDNAが一致した。また、成体の猫の白骨、ニ体の子猫の白骨、寛太の体毛、以上のDNA検査から親子と判明した。

すべてが、一つの場所・桧山家で繋がった。


 

死体遺棄、銃刀法違反、動物愛護法違反、以上の容疑で桧山夫妻と裕也に、捜査本部は任意同行に求めた。


桧山夫妻は以下のように供述した。

一昨年の五月中頃、一緒に家に帰ったら、祐也が増築予定の裏庭を掘り起こしていた。不審に思い近づくと、子供の骨だった。

五年前、勝手に庭に侵入した子供に、エアガンが当たって死んてしまったと話した。発覚すれば将来が閉ざされると、泣きつかれた。その骨は、行方不明になった刈谷英真君だと気づいた。大事な息子が一生棒に振るのが堪え難く警察に届けなかった。そして、夜中に教習所裏の雑木林に埋めた。


一方、祐也は以下のように供述した。

庭で猫の親子をエアガンで撃ったら死んでしまい、勝手に侵入した子供にも当たってしまった。裏庭の一ヶ所に猫の親子、もう一か所に子供と子猫を埋めた。エアガンは分解して不燃ゴミで処分した。その後、子供を埋めた場所が陶芸工房になると聞いて、掘り起こしていたら両親に見つかってしまった。


祐也の供述は、英真君死亡の経緯とエアガンの入手経路について曖昧ところがあった。拘留期限が迫り、捜査本部は真相究明を検察に任せることにし、相当処分で桧山親子を送致した。



 

大樹のアパート、康太は、桧山親子の供述内容を由衣と大樹に説明した。

話し終え、康太はポツリと洩らす。

「桧山裕也は、まだ何か隠してる」



大樹は姿勢を正し、由衣、次に康太に真顔を向けた。

「英真君の絵では、お母さんを表す楕円は、左右に小さな膨らみがあり、お父さんと自分の絵には、下の方にポチっと出っ張りがあります」

「は!」

由衣は嫌な予感を覚え、大樹に訝し気な目を向けた。

だが、大樹は気にせずに続けた。

「最後に描いた絵では、左右が膨らんだ歪(いびつ)な多角形から、鋭い三角形がネコに向かっています。エアガンを撃ったのは、女性だと思います」

康太が何度も頷く。

「なるほど!」


由衣は、取り澄ました顔を康太に向けた。

「お兄ちゃん、今の話、他で説明するときは、ちょっとぼかして」

「ん? オッパイとチンコを連想す……」

由衣は、康太の向こうずねに蹴りを入れ、最後まで言わせない。

「イテッ!」


横で、大樹が不思議そうに首を傾げた。

「何で怒るんですか? 分かりやすい説明だと思います。康太さんはすぐ理解しました」

「それが問題なの! そもそも今の言葉、耳にするの嫌い」

「え? 由衣はよく”オッパイ”って言います。……あっ、そうですね。”チンコ”は下品です。”オチンチン”と言うべき……」

由衣は、大樹の二の腕を容赦なくつねり、最後まで言わせない。

「痛っ!」


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