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見える僕と理解する君  作者: 芳里 匡喬


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22/24

BとG その4 アナフィラキシーショック

大村の死因は鈍的外傷からの広範な組織の挫滅・挫傷による大量の細胞外液喪失、低酸素血症、心機能低下等による外傷性ショック死とされた。

あの頑健な大村が逃げもせず、抵抗もせず、やられ放題暴行された。どの傷も浅く、大村の性的嗜好が疑われたが、証言をする者は皆無、大村の自宅マンションからは、何一つ裏付けは出ない。




康太は、大樹の観察力に期待し、現場写真を見てもらうことにした。

土曜日、康太が運転する車は、新宿署に向かった。後部座席に由衣と大樹。由衣は、発達障害気味の大樹の保護者だと屁理屈をこね、強引に着いて来たのである。


新宿警察署の一室、山県刑事と柿崎刑事、他捜査員三名が同席していた。

大樹は、別荘のデッキの床を映した現場写真に目を留める。

「ダンゴムシがサツマイモの天ぷらに群がっています」

「それがどうしたんだ?」

柿崎刑事が口を尖らせる。

「大村は、甲殻類アレルギーです」


康太が即座に反応した。

「アナフィラキシーショックか! だが、胃の内容物に甲殻類はなかったか……」

「ケツの穴と金玉にも傷があったから、”アナルフルチンショック”じゃねえか?」

柿崎刑事が下品な冗談を飛ばし、皆が「ブッ」と吹き出す。

品のない言動が大嫌いな由衣は、今にも毒づく様子を見せる。

大樹はすかさず意見を述べた。

「エビと同じ油で揚げても発症する可能性はあります。抗体を調べるべきです」

結果、司法解剖が再度実施されることになった。




人目をはばからず、変顔してふざけ合う由衣と大樹。寛太が時々見せるフレーメン反応の真似をしている。

康太は、苦笑した。

(こいつらガキだ……)

直後に目からウロコが落ちる。

(子供か!)


「大樹君、もう一つ見てもらいたい」

「はい」

それは、別荘管理棟の防犯カメラの映像だ。当然、このカメラと、別荘近辺の防犯カメラは確認済みである。


皆が見守る中、画面を見ている大樹が声を上げた。

「ヤマガラが五羽、オオルリが三羽、アカゲラが二羽、一斉に飛び立ちました」

大村の死亡推定日、十三時四分の映像で、画面の端の遠景、貸別荘を取り囲む林の中である。


「ヤマガラとかアカゲラとか鳥だろ? それがどうしたんだ?」

柿崎刑事が首を捻ると、大樹は説明を加えた。

「藪が揺れてます。何かが林の中を突っ走り、驚いて飛び上がったのだと思います」

「何かとは?」

「藪で姿が見えないので、子供か小動物」

康太が口を挟む。

「どっちの可能性が高い?」

「キツネやタヌキは鳥達にとってあまり脅威ではない。木登りが得意なネコやテンは突っ走るのは主に逃走時、方向がおかしい。藪の揺れはもっと小さいはず。だから、おそらく子供です」

「なるほど」

康太は、得心したように二度頷き、携帯を取った。




ドアが開き、女性事務員が入室した。

「飲み物とケーキ用意しました。こちらへどうぞ」

由衣と大樹は、先導され部屋を出て行った。


二人を見送った康太が一同を見回した。

「周辺の防犯カメラを子供を視野に入れ、再確認しよう」

「子供ですか?」

首を傾げる柿崎刑事に、康太は顔を向けた。

「大村は、別荘を借り、拘束器具と高画質ビデオカメラまで用意した」

「そうか! そこまで準備して断念した。大村の執拗な性格から代わりを求めた!」

山県刑事が大きく頷き、柿崎刑事がこぶしを握った。

「アナル……アナフィラキシーショックを発症していたら、体格差は意味を持たない!」

山県刑事、柿崎刑事、他捜査員らは、一斉に椅子を蹴るよに立ち上がり、部屋を出て行った。




帰宅途中、後部座席から由衣が声を掛けた。

「お兄ちゃん!」

「ん?」

「大村、誘拐たくらんだんでしょ?」

「……あの車、三十キロオーバーだな」

「誤魔化さないで。ターゲット、あたし達だったんでしょ?」

「さてと! 腹減ったな。何がいい?」


由衣は頬を膨らませる。

(……図星?)


隣に座る大樹は、眠りこけていた。窓に頭を預け、寝息を立てている。

起こすのも気が引ける。由衣は小さくため息をつき、流れていく夜の街並みに視線を移した。




当日、午後四時過ぎ、大樹の自宅アパート、降りしきる雨が窓ガラスを打ち鳴らす。

テーブルに着き、ボーッと天井を眺めている大樹に、由衣が声を掛けた。

「ねえ」

「はい?」

「大村、あたし達の誘拐、たくらんでたんでしょ?」

「そうですね」


顔色一つ変えずあっさり肯定する大樹に、由衣は呆れた。

「危機感無さすぎ! 大村が死んでなかったら、あたし達どうなってたのよ」

「何事も無かった。大村と協力者は逮捕されてたから」

「えーっ! どうしてそうなるの?」

「僕達、帰りは必ずコンビニの前と、そこのT字路を通るでしょ?」

「うん」

「コンビニに見張り役がいて、僕達を見かけたら実行役に連絡する。そこのT字路に僕達が通りかかったら、ワゴン車で待機していた実行役は、左から侵入して急停車し、数人で僕達を素早く押し込む。それ以外に方法はない」

「見張り役は窓際で見張ってて携帯を取る。ワゴン車はカーブミラーに映る。大樹なら必ず気づく」

「そういうことです」

「見張り役は、あたし達を尾行していた男?」

「たぶん違う。彼は僕達の帰路と帰宅時間を調べてただけだと思う」

「はあぁぁー」


由衣は深くため息を吐いた。

(大樹の将来が心配。警察署で見せた”脳力”に加えてこれ。医師になっても法医学なんて目も当てられない)




山梨県警の捜査員が別荘周辺の防犯カメラを再確認した。

結果、近くのコンビニの防犯カメラに、息を切らせて入ってきた少年と少女が確認された。撮影日時は大村の死亡推定日の十三時十六分。


二人は程なく見つかった、

武村大輔(だけむらだいすけ)・十一歳と、小笠原里緒(おがさわらりお)・十一歳で、近隣では美少年・美少女カップルとしてそこそこ有名だった。二人とも別荘に程近い小学校の五年生で、二人で行動することが多いとのこと。

捜査員が各家庭を訪問し、それぞれ話を聞いた。二人は、別荘地に入ったことはなく、大村は見たこともないと答えた。捜査本部は範囲を広げ、防犯カメラの確認と目撃情報の収集を続けた。




一方、大村の遺体に再度司法解剖が実施された。死後五日間高温状態で放置され、腐敗はかなり進んでいた。だが、心臓と大動脈の血栓、肺の充血、内臓の虚血が限界寸前で認められ、甲殻類アレルゲンに対する抗体が検出された。但し、胃の内容物には甲殻類は検出されなかった。

大村はアナフィラキシーショックを発症し、抵抗できない状態で暴行を加えられた。死因は両者による複合的なものとされた。


すでに輪郭は見えていた。だが、核心だけが、まだ掴めていない。


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