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黄金の国の狩人  作者: 神誠
第四章 澱んだ都

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39/51

標的

 教会の地下の拠点の一室で、真十郎はゲオルグ王暗殺のための計画について説明を受けていた。

 実行は五日後の深夜に予定されている。

 王族しか知らない城内の地下道を辿って侵入するのだそうだ。

 そのほとんどは、ゲオルグ王により既に封鎖されてしまっているらしいが、そのいくつかに細工を施しており、その気になればすぐに通れるようにしているのだという。


 真十郎にとって驚きであったのは、侵入方法よりも標的に関する情報だった。

 真十郎は躊躇いながら、コリンナに対して質問を投げ掛けた。


「ゲオルグ王は人間では無いと言うのか?」

「まあ、そう言われるだろうとは思っておりましたが、やはり信じられませんか?」


 真十郎の問いにコリンナは皺だらけの顔を歪めて困ったように苦笑する


「冗談でそんな話ををするとは思えないが、やはり信じがたい話だ」

「そのお気持ちはよくわかります。ただ、あれは通常の武器で傷つけることは出来ない。それだけは覚えておいて下さい」

「ならば、どうすればいい?」

「私が魔術を付与した武器を用意致します。それを以てすれば、あれを倒すことも出来ましょう」

「武器? どんな武器だ?」

「どのような物でも。ただし、あまり大きな物……槍や斧などは暗殺には不向きでしょう。それほど大きくないものが良いかと思いますが、そのあたりは使い手にお任せいたします」


 魔術を付与した武器を用いねば傷付かない異界の悪魔。

 そんな常識が通用しない相手であるならば、他にも何らかの特性を持っていたりはしないだろうか。


「毒は効くのか?」

「通常の毒はおそらく効果が無いでしょう。魔術や錬金術によって作成された物であれば、効果はあるかと思います」


 毒も通常の物は効果が無いのであれば、真十郎の使える手はかなり減ることになる。

 慎重に事を運ばなければならない。


 説明によると、エーリヒの先導に従い王城地下の王族しか知らない通路を使って城内に侵入し、ゲオルグを暗殺するという計画らしい。

 無謀とも思えるが、他に方法が無いのだという。

 ゲオルグは三ヶ月程前から城内に留まったまま、全く外に出てこなくなったということだ。


 頭の中で情報を整理する。

 標的であるゲオルグは人では無いという話だ。

 魔術によって呼び出された、異界の存在が王になり替わっているのだという。

 信じ難いことではあるが、ここにいる者達は誰一人としてそれを疑ってはいないようだった。

 そんな話で真十郎を騙す必要など全く無い。

 だとすれば真実なのだろう。

 真十郎自身、魔術というものをよく理解しておらず、得体の知れない超常の技であるという認識しか無い。

 魔術について深い知識を持つコリンナの言葉を信じる以外に無いだろう。


 彼の故郷でも、その手の物の怪の話は聞いたことがある。

 人の姿を真似て、人を騙し襲い掛かる。

 だが、それが一国の王に化けているというのは、随分と大きな話だ。

 そういえば、絹の国の伝説にもそのような話があった気がする。

 美しい女に化けて王の妃となり、非道の限りを尽くした妖怪の話だ。

 だがそれはあくまで伝説だ。

 そのような状況が現実に目の前にあるのだと説明されても、実感できるはずが無かった。

 だが標的が本当に異界の存在であるならば、いつにもまして慎重に事を運ぶ必要がある。

 どんな得体のしれない力を持っているかもわからないのだから。






 五日後の夜半。

 真十郎は反乱組織の構成員たちとアーデルラント王城の地下道内に忍び込んでいた。


 ランタンを提げた騎士が先頭を歩いている。

 その後ろにエーリヒと真十郎、五人の騎士達が続く。

 総勢八人が暗殺要員として城内に潜入していた。

 全員がコリンナによって魔術を付与された短剣を身に付けている。

 エーリヒは腰に下げた剣にも魔術を付与されていた。

 音を立てないようにするため甲冑を身に付けている者はいない。

 全員がローブをまとってフードで顔を隠している。

 彼等はエーリヒの案内で、王族しか知らない王宮内へと続く隠し通路を辿り城内に侵入している。

 彼らが辿る地下通路は所々で枝分かれしており、迷路のようになっていた。

 分かれ道に差し掛かるたびに、エーリヒが道を指し示して進む方向を決めていた。


 三十分ほど歩いた頃だった。

 真十郎は進行方向から何者かの声が聞こえてくることに気づいた。


「この先から声が聞こえる」


 真十郎は抑えた声で先頭を歩く騎士に向けて注意を促すように声を掛けた。

 先頭の騎士とエーリヒが立ち止まり振り向いた。

 後ろを行く者達も立ち止まっている。

 先頭の騎士がランタンのカバーを動かし光量を絞る。

 一行はこれまで以上に慎重に、気配を消して歩きだす。


 やがて何者かの声がはっきりと聞こえるほどに大きくなってきた。

 地下に朗々と響き渡る低く力強い男の声。

 発している言葉は意味不明の奇妙な言葉で、何らかの呪文のようにも、歌っているようにも聞こえる。

 さらに進むと階段が見えてきた。

 その階段を上った先から明かりが漏れている。

 声もその先から聞こえてきていた。


「この声は……」


 エーリヒの呟きが真十郎の耳に届いてくる。

 エーリヒが右手を上げ、一向に向かって指示を出す。


「明かりを消してくれ」


 先頭の騎士がランタンの火を吹き消す。

 一行は漏れ出る微かな明かりを頼りに、慎重に歩を進めた。

 そのままゆっくりと階段を登り、部屋の入口の周りに全員が身を潜めた

 そのさきはかなり広い部屋になっていた。

 すぐそばで、中を覗き込んだエーリヒが息を飲む気配がした。


「これは……運がいい」


 真十郎もエーリヒの視線の先を見た。

 そこには一人の男が立っていた。

 おそらくあれが標的なのだろう。

 標的がたった一人でこんな場所にいるのだ。

 運が良いと思うのは当然かもしれない。

 だが、真十郎は違う感想を抱いていた。


 まずいと……彼の勘がそう告げている。

 部屋の中心で何事かを唱え続ける男は異様な雰囲気を纏っていた。


 あれに近づいてはならない。

 真十郎の暗殺者としての感覚が激しく警鐘を鳴らしていた。

 もしあれに近付くつもりならば死を覚悟しなければならないと、自身の勘がそう訴えかけてくる。


 あれが標的であることは周囲の反応を見ても間違いなさそうだったが、確認のためにエーリヒに問いかける。


「あれが……そうなのか?」

「そう、あれが父……いや、かつて父であったものだ」


 ゲオルグ王はすでに人では無くなっているとコリンナも言っていた。

 超常の存在、あるいは物の怪の類に成り代わってしまったのだと。

 それを実際に自身の眼で見て納得した。

 あの異様な気配……彼女の言葉は真実であったのだ。


 奇妙な言葉を紡ぎ続けるゲオルグ王の目の前の空間が、ぐにゃりと歪んだように見えた。

 数秒後、そこには黒い円形の穴のような物が現れていた。

 一体どのような手段によるものか、それは空間に穴が開いているようにも見えた。

 ゲオルグ王はそれを見て満足げに頷くと、その穴のような物に近づき、その向こうへと姿を消した。


 しばらく……といっても数秒ほどではあったが、誰も動こうとはしなかった。

 最初にエーリヒが部屋の中へと入っていった。


 その後を追う様に全員が部屋の中へ入っていく。

 エーリヒは部屋の中央の空間に開いた穴のような物へと歩み寄る。

 そして警戒しながらそれを観察する。


「どうするつもりだ?」

「もちろん後を追う」


 真十郎の問いに、エーリヒは迷う素振りすら見せずにそう答えた。


 長年培われてきた真十郎の暗殺者としての感覚が、いまだ警告を発し続けていた。

 あれを追うべきではない。

 この先に進めば帰ってこれる保証はない。

 アンナとカールにも必ず生きて戻れと、そう言われていた。

 撤退するべきだ。

 もし自分一人でここに来たのであったなら、彼は躊躇うことなく撤退していただろう。


「あの男は得体が知れない。この先に何があるかもわからない。引き返すべきだ」


 無駄だろうと思いつつも、エーリヒに対して撤退を進言する。

 真十郎の言葉にエーリヒは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに首を振って拒絶の意を示した。


「それはできない。標的が護衛も連れず一人で行動しているんだ。こんな好機は二度と無いかもしれない。それを逃すわけにはいかないよ。多少の危険は皆覚悟の上でここに来ているんだ」


 そう言ってエーリヒは、ゲオルグが入っていった奇妙な穴の中の様子を伺う。

 多少の危険で済むとは真十郎には思えなかった。

 その根拠は彼の勘でしかなかったが、いままで彼はその勘に従ったおかげで何度も命拾いをしてきている。

 だが、ただの勘で一行の行動を左右できるはずもない。


「先は見えないが、行くしかない」


 そう言って、エーリヒは空間に空いた穴のようなものへと近づいていく。

 得体の知れない相手、得体の知れない空間。

 やはり、この先に進むべきではないと真十郎はそう思うが、この状況で一人だけ逃げ出すわけにもいかない。

 シャルロッテの願いもある。

 可能な限りクラウディアとエーリヒを助けると、そう彼女に誓ったのだ。


 エーリヒが腰に差していた短剣を引き抜き、その先だけを目の前に浮かんだ穴のようなものに向けて差し出した。

 それは抵抗なく穴の中へと入っていく。

 エーリヒは短剣をすぐに引き戻したが、その刃は無くなったりはしていなかった。

 エーリヒは一つ深呼吸したのち、先頭に立って穴の中へと入っていった。

 真十郎もそのすぐ後をついていく。


 特に違和感もなく、真十郎は穴の向こう側へとたどり着いた。

 辺りを見回すと、そこは岩の壁におおわれた洞窟のような場所だった。

 ゲオルグの姿はない。

 そこは端から端まで百歩程はあるだろう、円形に近い形をした広間のように見える場所だった。

 所々の地面や壁から水晶のような突起物が出ており、それが淡い光を放っている。

 その明かりのおかげで周囲の状況を眼で確認することができていた。

 八人全員がその空間に入ってきたのを確認してから、エーリヒは手で皆を招くような合図をしてから歩き始めた。


 その直後、突然周囲の景色が歪んだように感じた。

 めまいに襲われ、体勢を崩し膝を付く。

 一体何が起こったのかと、真十郎は顔を上げてあたりを見渡し、周囲の状況を確認する。


 先程とは違う場所にいた。

 そこは、大人が五人程並んで歩ける程度の広さを持った通路のようになっていた。

 それ以外は最初の広場と変わらない。

 先程いた広間と同じように、周囲の岩肌から水晶のような淡い光を放つ突起物が突き出している。

 今いるのは同じ空間内の別の場所なのだろうと真十郎は推測する。

 周りにいた仲間たちの気配は全て消えていた。


 これは何らかの魔術によるものなのか?

 皆が別々の場所に移動させられたのかもしれない。

 少なくとも、真十郎は今仲間とはぐれてしまっている。

 何が起こったのかわからなかったが、まずは仲間と合流したほうがいいだろう。

 そう考え、真十郎は当ても無いままに移動を開始した。



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