制限される能力
「レント、あなたの魔法見せてちょうだい」
朝食の片付けが終わったころ、エレノアは言った。
ソラが翼を広げた。
『これまでの成果を見せましょう』
「エドワードにあそこまで言わせる力、楽しみね」
エレノアの目が変わった。アンナとマギーが顔を見合わせた。
シャーロットが椅子から立ち上がった。
「私も見たい」シャーロットが言った。
「庭から少し離れたところにいきましょう」
屋敷から少し離れた広い場所に全員が集まった。
エドワード、エレノアとシャーロット、アンナとマギー、
もう一人の使用人のトーマス。
全員がレントから少し距離を置いて立っていた。
ソラがレントの肩から離れて、頭上に飛んでいる。
『とりあえず練習で上手くできたのは全部やろう』レントがソラに伝える。
『はい』
レントは目を閉じた。
炎のイメージを作った。手のひらより少し大きい、安全な大きさから始めた。
目を開けると、炎が浮いていた。
炎が広げた、雑草が燃え始めた。
その炎を槍の形に変えて正面に見える大木に突き刺した。
すぐ水の球体を作って炎の槍にぶつける。いくつも、いくつも。
大木の火も、燃え始めていた雑草の火も消えて煙が出ていた。
次は指から電気を出す。
指を拳銃に見立てて、そこから打つように。
空に向けて細い雷を走らせた。そこから葉っぱに当ててみる。
当たると痛そうな音が聞こえた。
『もういいかな』レントは言った。
『瞬間移動して、みなさんのところに戻りましょう』
目の前の空間とみんながいる空間を繋げるイメージをする。
レントは空を見て目を瞑った。
ちょうど母の前に戻ってきた。
エレノアが口を開けて固まっていた。
エドワードはなんとも言えない表情をしている。
シャーロットはソラに手を振っている。
アンナとマギーは目を輝かせているように見えた。
トーマスは目を伏せて浮かない顔だ。
「トーマス、どうかした?」レントはできるだけ優しく問いかけた。
「い、いえ、びっくりしてしまって」トーマスが左腕を押さえていた。
「腕どうかしたの?」
「転んで少し怪我をしました。大したことはありません、
皮膚が少し切れた程度です」
「ちょっと見せてみて」
「いえ、本当に大したことないですから」トーマスはそう言った、
ただ顔が青かった。
レントはトーマスの腕を見せてもらった。本当に大したことない、
逆にやりやすいと感じた。
『ソラ、治していいと思う?』
『判断は難しいです。治療もできるとなれば、必ず依存されるようになるでしょう』
『そうかも。父と母に判断してもらおうか』
「トーマスちょっとそのまま動かないで」
傷口から小さな新芽のような光が周囲の組織を包み込む。
最後に花弁が閉じるように、傷がふわりと塞がる。
そんなイメージ。
トーマスの左腕に光が当たった。
数秒で、傷が消えた。
全員が黙っていた。
トーマスが自分の腕を見て、しばらくしてレントに顔を向けた。
「治ったと思いますが、どうですか」できるだけ優しく声をかけた。
「は、はい。ありがとうございます」トーマスは戸惑ったようにそう言った。
全員が動き出した後、トーマスだけがまだ自分の腕を見ている。
傷があった所を、袖でそっと隠した。
しばらく誰も何も言わなかった。
エレノアが最初に口を開いた。「治癒ができるなんて聞いたことないわ」
「一度、同じような怪我をした時、試したことがあります」
「他にもできることある?」
「イメージさえできれば、できると思います」
エレノアがソラを見た。ソラが静かに羽を動かした。
「精霊様の力ですか」
「力を引き出してもらえたみたいです」
エレノアはまた黙った。長い沈黙だった。
シャーロットがトーマスの腕を触っていた。「本当に何もない」と言った。
「きれいに消えたね」
トーマスが頷いた。まだ自分の腕を見ていた。
アンナとマギーは少し後ろに下がっていた。
怖がっているというより、処理が追いついていない顔だった。
エドワードがレントの前に立った。
「レント」
「はい」
「治癒ができることは言ってはならん、
お前が本当に大切に思う人間にだけにしておけ」
エドワードが厳しい顔で言った。
「皆も他言無用だ。いいな、これは命令だ」
「ソラ様」エレノアがソラに向かって言った。
「レントをよろしくお願いします」
ソラが羽を広げて頷くような仕草を見せた。
その日の夜、レントはベッドの中でソラに聞いた。
『今日の反応、どう感じた』
『畏敬が強いと感じます。恐怖は少なかったのではないでしょうか』
『治癒はしない方が良かったかも』
『これからのことを考えましょう。治癒を極めれば戦場に行かなくて済むかもしれません』
『あ、たしかにそうかも。その方が僕に向いてる気もするな』
『戦場で人が死ぬ最大の原因は、傷そのものより傷の悪化と感染です。
治癒魔法が使えれば、それが大きく変わります。』
レントは天井を見た。『それはすごくプレッシャーがかかりそう』
『そう思います。一度知られてしまえば止められないでしょう、
それこそ逃げないと』
『何を見せ、何を見せないかは慎重に決めた方が良いでしょう。
ご家族も巻き込みかねません』
レントは少し考えた。
『わかった、何が一番かよく考えてみるよ』
ソラが羽を動かした。『はい』




