朝練と兄の言葉
後から聞いた話だが、シャーロットがクラス分け試験で魔法をずっと維持させていたらしい。
去年の僕と同じだ。
Aクラスになるだろう。
僕はというと、二年生になった。
今年はクラス内での入れ替えはなかった。同じ顔ぶれだ。
朝練も再開した。
いつものメンバーが集まった。
僕、ルイーズ、レナード、エリック、セバスチャン。
いつもの場所で、いつもの時間に。
何かが変わったようで、何も変わっていない。
ただ一つ、ルイーズが違った。
ルイーズはバフを自分でかけるようになっていた。
カルヴィン領で覚えた空間魔力の補充。それを応用して、自分の身体にバフをかけている。
僕がかけるのとは違う。自分の感覚で、自分の限界をわかった上でかけている。
動きが鋭かった。
踏み込みの速さ、剣を振る力。どちらも以前とは別物だった。
レナードと打ち合っていたが、レナードが押されている場面があった。
はっきり言って、体術で敵う人間がいるのかと思った。
練習後、ルイーズが腕を押さえていた。
「反動がすごいのよ」
「痛む?」
「痛むというか、筋肉が悲鳴を上げている感じ。もっと強いバフをかけることもできそうだけど、筋肉が断裂しそうで怖い」
「無理はしないでください」
「わかってる。でも、これに耐えられる身体を作らないと。バフの意味がないわ」
ルイーズの目は真剣だった。
レナードもそう感じていたようだ。
「すごい動きだったな」
「ええ」
「だが、調子に乗ると怪我をするだろうな。身体の方が追いついていない」
「本人もわかっているみたいです」
「わかっているならいい」
レナードが少し間を置いた。
「レント、後で話がある。練習が終わってからでいい」
ルイーズたちが帰った後、レナードと二人になった。
訓練場の端のベンチに座った。朝の空気がまだ冷たかった。
「ルイーズのことだ」
レナードが言った。
「それと、アメリアとクララのことも」
「全部まとめてですか」
「まとめるしかないだろう」
レナードが僕を見た。
「お前は好きにすればいい。その考えは変わらない。だが、中途半端は良くない」
「中途半端ですか」
「ルイーズを連れて帰省した。アメリアに挨拶に行った。クララにはシャーロットを紹介した。お前はそれぞれに何かをしている。だが、誰にも本当のことを言っていないだろう」
返す言葉がなかった。
「僕は今、結婚のことは考えていない」
「何を考えている」
「魔族のこと。それと、勇者を死なせてはならないということ」
「だからルイーズと一緒にいると」
「ええ。一緒にいるべきだと思っている」
レナードがしばらく黙っていた。
「それをルイーズに言ったのか」
「いいえ」
「アメリアには」
「言っていません」
「クララには」
「言っていません」
「本音で話してみろ」
レナードが言った。
「景色が変わるだろう。景色が変われば、行動も変わる」
「景色が変わる」
「お前の考えは大切にしろ。だから、三人の考えも大切にしろ。お前は望んでいなくても力を持ってしまった。良くも悪くも影響が大きい。それを忘れるな」
重い言葉だった。
でも、兄が言うから聞けた。
「ありがとう。レナード兄さん。よく考えてみるよ」
「ああ」
レナードは立ち上がって、振り返らずに歩いていった。
一人になった。
『ソラ、どう思う?』
『環境がどうであろうと、レンさんがどうしたいかを大切にしてください』
『その環境がな。魔族はどうなんだろう。準備が活発になってきたと言っていたね』
『ええ、そうです。すぐに攻めてくるかはわかりませんが、来ることは確実でしょう』
『そうか』
少し黙った。
『そもそも僕は人を殺せるのだろうか。ルイーズは。みんなは』
ソラが少し間を置いた。
『レンさん、必ずしも殺す必要はないです。怪我をすれば戦えませんし、それを治療する人も必要になります』
『つまり』
『むしろ怪我をさせた方が、戦力を削れるかもしれません。一人の怪我人を運ぶのに二人要ります。治療にも人手がかかります。殺すより、生かして戦線から退かせる方が、相手の負担は大きい』
合理的だった。
ソラらしい答えだった。
でも、それが正しいのかはわからなかった。
怪我をさせることだって、簡単なことじゃない。
『考えましょう。時間はまだあります』
ソラが言った。
『ああ。考えよう』
朝の光が訓練場に差し込んでいた。
二年目が始まっていた。




