恋に落ちたその日から
中庭を歩いていたら、シャーロットとクララがベンチに座っていた。
「レント兄様」
「何してるの」
「クララにこの辺りを案内してたの」
「もう覚えた?」
「まだ全然です」クララが笑った。
「でもシャーロットがいるから安心です」
「それはよかった」
授業のこと、食堂のこと、図書室の場所。
たわいもない話をして、二人は帰っていった。
「じゃあね、ソラちゃん」
『はい』
二人が歩き去った直後だった。
背中に何かがぶつかってきた。
何かというか、誰かだった。
「レント!貴様」
振り返ると、息を切らしたヴィンセントがいた。
「どうしたの、そんなに息荒くして」
「お前、今の子たちは誰だ」
「クララ王女と、シャーロットだけど」
「クララ王女は知っている。そうじゃない、もう一人の子だ」
「シャーロットのこと?」
ヴィンセントがピタッと止まった。
目が見開かれ、胸に手を当てる。
「シャーロット……」
名前を噛みしめるように言った。
「……なんて可憐な名前なんだ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、またね」
「ちょっと待て。いえ、待ってください。レント、頼む。このヴィンセントに彼女を紹介してくれ」
「え?嫌だけど」
「よく聞いてくれた。俺は今日、恋に落ちた」
「そんなの知らないし、聞いてないけど」
「わかってくれるか。これが恋に落ちると言うことか。まるで雷のようだ。俺に落ちたんだ。ドンッとな」
「ソラ、全然聞いてくれないんだけど」
『こういう場合は落ち着くまで放っておきましょう』
ヴィンセントはレントの肩を掴んだ。
「お前の妹だろう?ならば俺は義兄上と呼ぶべきか?」
僕に寒気が襲ってきた。
「レナード兄さんなら、そう呼んでもいいかも。試してみてよ」
「そうか。俺が真ん中になるのか!」
「なんでそうなるのさ」
ヴィンセントはさらに前のめりになる。
「レント、俺は真剣だ。あの子は……なんというか……輝いていたんだ。俺を照らしてくれる」
「シャーロットはいい子だよ。だからヴィンセントには紹介したくない」
「いや、俺には見えたんだ。後光が」
「それはただの幻覚でしょ」
「そうなんだ。運命だ」
「そんな運命は阻止したいね」
ヴィンセントは胸に手を当て、空を仰いだ。
「俺は今日、恋に落ちた。俺にこんな日が来るなんて」
「今日で終わらせる?」
「レント、ありがとう。ただ、伝えておくべきだと思った」
「だからレナード兄さんに言ってよ」
「レント、お前は俺の親友だ」
「そうだったっけ?」
「ああ、世界に感謝する!」
『面白い人ですね』
ソラが言った。
ヴィンセントはさらに熱を帯びる。
「レント、俺は彼女に相応しい男になりたい。だからまずは情報が欲しい」
「情報?」
「好きな食べ物、趣味、嫌いな虫、寝る前に読む本、朝は強いのか弱いのか、あと将来の夢と俺といつ結婚するかだ」
「しないと思うから、知らなくていいんじゃない」
「じゃあまずは何からだ?」
「とりあえず挨拶でもしてきなよ」
「なるほど……挨拶か……深いな」
ヴィンセントは拳を握りしめた。
「よし、決めた。まずは彼女にこう言おう。君の笑顔は俺の人生を変えた、と」
ヴィンセントはしばらく黙り、深くうなずいた。
『レンさん、いきましょう』
ソラが言った。
「そうだね」




