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いい匂いと青い鳥と魔法の話  作者: かわいかつひと


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一年目の終わりと始まり

今日は朝から馬車の停留所の近くにいた。

シャーロットが今日来るはずだ。

「レント、いつから待っているんですか」

そのことを知っているルイーズがやってきた。

「いつ着くのかわからないから」

「そうね」

それだけで納得してくれた。


新入生がちらほらとやってくる。

馬車や徒歩、荷物を抱えた人たち。

どこかで自分が入学した日を思い出した。


ソラはカルヴィン領まで迎えに行かせている。

その間、僕の魔法は使えない。

授業はないからいい、訓練は体調が悪いと言って休んでいる。

問題はない、はずだ。

「体調良さそうですね」ルイーズが言った。

「うん。ずいぶん良くなったよ、明日から訓練も出ようかなと思ってる」

「そう、それならよかったわ」

それ以上は聞かれなかった。


馬車の中は揺れていた。

シャーロットは窓の外を見ていた。

「ソラちゃん、来てくれてよかった。嬉しかったわ」

「はい。レンさんが行ってきてと言ってくれましたから」

「レント兄様は優しいから」

ソラは少し黙った。


「魔法のこと、教えてもらえる?」

「はい。何でも聞いてください」

「レント兄様みたいになりたいわけじゃないけど、もっとできることを増やしたくて」

「シャーロット様の良さを出せばいいのです。レンさんは関係ありません」

シャーロットは少し笑った。

「魔法はイメージが大切って、レント兄様が言っていた」

「はい。イメージさえできれば、あとは魔力の問題です」

「でもイメージって、どうすればいいの」

「この世の(ことわり)を知ることです」

「理?」

「例えば、引力というものがあります」

「引力?わからないことばかり言うのね」


「もの同士が引き合う力です。今も地面がシャーロット様を引っ張っています」

「どう言うこと?全然わからないわ」

「石を手放すと、落ちますよね」

「そうね」

「あれが引力です。地面がその石を引き寄せています」

「地面が引き寄せる?」


「はい。そして石も、ほんの少しだけ地面を引っ張っています。お互いに引き合っているのです」

「私も地面を引っ張っているってこと?そんなつもりないけど」

「はい。ただ地面の方がずっと重いので、シャーロット様が地面に引き寄せられているのです」

シャーロットは少し考えた。


「だから物が落ちるのね」

「葉っぱも、投げた石も、跳んだあと戻ってくるのも、全部引力です」

「それがわかったら、どう使えるの」

「どこかに引力を発生させて、自分を引き寄せる。

そうすれば、壁でも天井でも歩けます」

シャーロットが目を丸くした。

「天井を歩く?」

「地面だと思えば歩けます。できないと思えばできません」

「他には?」

「飛んできた矢の軌道を変える。荷物を浮かせて運ぶ。工夫次第でいくらでも」

シャーロットはしばらく黙っていた。

「馬車の中で練習できる?」

「やってみましょう」



午後になって馬車が門に着いた。

シャーロットが降りてきた。

「レント兄様」

「旅はどうだった?」

「ソラちゃんをありがとう。すごく楽しい旅だったわ」

ソラが肩に戻ってきた。

「おかえり」

「ほら、見て」


シャーロットが荷物を置いて、近くの木に向かって歩き出した。

幹に足をかけた瞬間、そのまま登っていった。

登るんじゃない。歩いていた。

幹の表面を、地面のように。

「シャーロット」

ルイーズが声を上げた。

「またすごいことを始めたわね。私にも教えてくれる?」


「私も教えたくってしょうがないの」

シャーロットが嬉しそうに木から降りてきた。


「シャーロット」僕は声をかけた。

二人が振り返った。

「ルイーズしか居ないからよかったけど」

僕は言った。


「なんでも好きにやっていい場所と、そうでない場所がある。ここはカルヴィン領じゃない」

シャーロットは少し口を閉じた。

「わかった。ごめんなさい」

「別に謝らなくていい。ただ気をつけといて」


夕方の光が石畳に長く伸びていた。

シャーロットが学園の建物を見上げていた。

どんな顔をしているか、横からはわからなかった。

「思ってたより大きいわ」

「慣れるさ」

「そう」

それだけ言って、シャーロットは荷物を拾い上げた。

「シャーロット、案内するわ。着いてきて」

ルイーズが言った。


一年目が終わって、二年目が始まる。

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