早朝の練習
夜明け前に起きるのは、慣れればそれほど辛くなかった。
10歳の体は回復が早い。
前の世界では朝が苦手だったが、この世界では体質も変わったみたいだ。
庭の隅、木の陰になっている場所がいつもの場所だった。
『今日も空間魔力からやりますか』
『うん』目を閉じた。
空気の流れを感じようとした。
魔力があると感じようとした。
何もわからなかった。
目を開けた。『ソラ、今日も無理かもしれない』
『まだ三日目です』
『そうだけど』
それから一週間経った。
『どうですか』
『わからない』
一ヶ月経った。
魔法は使える。
ソラが小さな光を出す、隣で同じようにやる。
レントは目を閉じて感じてみる。
自分の体内の魔力が動く感覚はあった。
小さな光が出た。
『体内の魔力ですね』
『うん』
『空間の魔力は』
『わからない』
小さな光が消えた。
体の中が空っぽになった感じがした。
もう一度やろうとしたが、何も起きない。
これでは使い物にならない、魔法が広まらないのも当然だ。
レントは毎日忙しかった。
午前中は訓練場で剣を振る。
体術もやる。
先生とレナードと3人だ。
主にレナードと組み合う。
レナードの方が強かった。
四つ上だからある意味当然だ。
差が縮まっている気はするが、圧倒的な才能があるとも思えない。
「レント、最近動きが変わったな」レナードが言った。
「そうですか」
「何かやってるのか」
「特には」
レナードが少し考えた。
「そうか。才能があるのかもな」
父曰くレナードは才能があるらしい、少なくともレナードとの練習についていければ凡人と言われることはなさそうだ。
午後は夕飯の時間まで座学。
礼儀作法、歴史、算術、外交。特に戦術、戦略の授業は厳しかった。
辺境伯の次男として必要なことなんだろう。
でも、戦術、戦略はソラに任せればいいやとも考えていた。
夜は早く寝た。
いざとなればソラに聞けばいいやと考えると座学には身が入らない。
シャーロットは午前中にソラを探しに来る。
「ソラ、いる?」 訓練所に顔を出しては、最初に言うのがそれだった。
レントではなかった。
少し寂しい、少しだけだけど。
ソラが現れるとシャーロットの顔が変わった。
「ソラ、今日も綺麗ね」
『ありがとうございます』
「なんて言ってるの?」
「お礼だよ、シャーロットが綺麗って言ってくれたから」
「触れないのが残念」シャーロットは毎回同じことを言った。
ソラがシャーロットの周りをゆっくり飛んだ。
シャーロットは楽しそうに追いかける。
お互いにいい運動になってそうだ。
休憩中、シャーロットが聞いてきた。
「レント兄様、ソラと何を話しているの、いつも」
「いろんなこと」
「私も聞きたいわ」
「ソラはなんでも知っているんだ。聞きたいことを教えてくれるよ」
シャーロットがソラを見た。
「ソラ、私にも話しかけてくれる?私もソラとおしゃべりしたいわ」
『レンさん、いいですか?』
『シャーロットならいいんじゃない』
ソラがシャーロットの耳元に近づいた。
この世界の言葉で言った。
「シャーロット様は今日も元気そうです。」
シャーロットが固まった。
「喋った、私に喋った」顔が赤くなった。
「レント兄様、聞いた?」
「聞いた」
「元気そうって」
シャーロットがまた赤くなった。
「もう行かないと」
「また来てください」ソラがシャーロットにそう言った。
シャーロットが頷いて走って出て行った。
ソラが戻ってきてレントの肩に乗った。
『ソラ、シャーロットのことが好きだね』
『そうかもしれません』
『そうだよ、たぶんね』
ソラが小さく羽を動かした。
何も言わなかった。
一年が経った。
夜明け前の庭で、レントは目を閉じていた。
空間の魔力を感じようとした。
一年間毎日やって、わからなかった。
目を開けた。夜明けの光が木の葉を照らしていた。
「ソラ」
『はい』
『無理だと思う』
ソラが少し間を置いた。『そうかもしれません』
『あっさり認めるんだ』
『その可能性が高いと感じました。一年間変化がありませんでしたから』
レントは地面に座った。朝露で少し湿っていた。
『どうしようか。体内の魔力は年齢を重ねてもあまり変わらないみたいだし』
『方針の転換を提案します』ソラが言った。
『レンさんが魔力を使えないなら、私が使います』
『レンさんが指示を出して、私が顕現させる。連携です』
レントは少し考えた。
『それ、うまくいくかな』
『やってみないとわかりません』
『そうだね』レントは立ち上がった。
『何から始める』
『まずはレンさんのイメージを受け取る練習をしましょう。私たちがテレパシーを使えるのは知っていますか』
『え、そうなの?知らないけど』
『はい。テレパシーと言っても言葉のやり取りではありません。
イメージ情報を受け取る感じです』
『それってどうやるの』
『レンさんはただ魔法を行使しているイメージをください。
そのことに集中して、できるだけ他のことを考えずに』
そう言われたから、目の前に水でできた球体をイメージしてみた。
そうしたら、なんかボールが目の前に浮かんでる。水ではなさそうだけど。
『できた、のか?』
『レンさんのイメージを受け取って顕現しました。』
『考えていたのと違うけど、練習すればなんとかなりそうだね』
『はい』
ボールが消えた。
レントは訓練場に向かいながら言った。
『遠回りしたかな』
『魔法はイメージさえできれば再現できます。これまでのことは無駄にはなりません』
『そうかもね。でもテレパシーが出来たなんて早く言ってよ』
『聞かれなかったので』
そうだ、ソラは昔からそうだった。




