魔力の話
書斎は思ったより広かった。
壁一面に本が並んでいた。
埃の匂いがした。
窓から光が入って、本の背表紙を照らしていた。
『どこから読む』
『私は魔法関連を。レンさんは歴史から入ってください』
『わかった』
ソラが棚の前を飛んだ。
背表紙を順番に読んでいるらしかった。
レントは適当に歴史書を一冊抜いて、窓際の椅子に座った。
しばらく静かだった。
ページをめくる音だけがした。
先代の勇者が魔王を討伐したのは、八十年前。
その前の勇者は百五十年前。さらにその前は二百年前。間隔が縮まっていた。
魔族の勢力が回復する速度が上がっているということだった。
現在の戦況は膠着している。先代勇者が魔王を討伐した後、魔族は統率を失って一時的に後退した。
人族の領域が少し戻った。
ただ歴史は繰り返す、神様も言っていた。
歴史書の予想だと、あと10年〜20年で次の勇者が必要になる。
レントは本を閉じた。
「ソラ」
『はい』
『十年で何とかしないといけないかもしれない』
『そうですか』
『ずいぶんあっさりだね』
『驚いても状況は変わりませんし、レンさんが勇者の身体能力がないのであれば、勇者が生まれるのでは?』
レントは天井を見た。
『たしかに。もう生まれているかもね、僕らが知らないだけで』
『レンさん、魔法を試してみてもいいですか』
『書斎で?どんな魔法使うの』
『理論上はなんでもできます。私には出せないはずですが』
『いきなり言われても....で、出せないの?」
ソラが棚の前で止まった。小さな羽を広げた。
しばらくして光の玉のようなものが現れた。
『おかしいですね』ソラが言った。
『うん、出せたね』
『私には体内に魔力がありません。でも魔法が使えました』
『うん、使えたね』
『どうやら空間に魔力が循環しているようです』
『それがどうかしたの?』
『どこにも書いてありませんでした。知られていないようです』
書斎の隅に、幾つもの小さな光の粒が浮かんだ。
『このことを発見していないので、魔法が普及していないと思われます』
『体内の魔力ではなく、空間にある魔力をイメージと組み合わせて顕現させる。それだけです』
レントは光の粒を見た。ゆっくり揺れていた。
『空間の魔力を使えば』
『上限がありません。イメージできる限り、どんな魔法でも使えます』
レントはしばらく光の粒を見ていた。『それ、僕にもできるかな』
『試してみてください。空間にある魔力を感じて、イメージと繋げるだけです』
『感じる、か』
レントは目を閉じた。
できなかった。
『焦らなくていいです。今日わかったばかりですから』
『そうだね』レントは目を開けた。
『とりあえず、二つわかった』レントは椅子に戻った。
『十年で何とかしないといけない。魔法は空間の魔力を使えば上限がない』
『はい』
『順番に片付けよう』
『どちらから』
『魔力を感じる練習から』
窓の外で鳥が鳴いた。本物の鳥が。




