決勝
ヴィンセントとルイーズが中央に立った。
陽の光が二人の影を長く伸ばす。
ヴィンセントの影は、まるで壁のようにルイーズを覆った。
「ルイーズ、俺に勝てるだろう」
「ええ、勝てます」
「絶対に手を抜くなよ」
「始め」
号令と同時に、地面が鳴った。
ヴィンセントが踏み込んだのだ。
巨体が動いたとは思えない速さ。
空気が押し出され、砂が舞い上がる。
ルイーズは一歩、滑るように横へ。
ヴィンセントの木剣が空を裂き、風圧がルイーズの髪を揺らした。
観客席がどよめく。
「速い……!」
「押してるぞ、ヴィンセント!」
ヴィンセントが横から振る。
重そうだ、振り抜くたびに空気が震えるように見える。
ルイーズは半歩下がり、刃の軌道だけを外す。
受けない。
軽く触れ、ただ通り道をずらすだけ。
ヴィンセントの剣が地面をかすめ、砂が弾けた。
「ルイーズはずっと後退している」
「押されてるように見られそうだ。ただ回っているだけだけど」
僕は思わずそう言った。
リナが小声で言った。
「確かにそう見られそうですね。ルイーズさんは一度も危なくないのに。
ヴィンセントさんの剣は当たることはないでしょうね」
ルイーズの足は乱れない。
呼吸も変わらない。
ただ、巨大な獣の突進を紙一重でいなし続けている。
ヴィンセントが吠えるように踏み込んだ。
大きく振り下ろす。
地面に叩きつけるような一撃。
ルイーズはその瞬間、剣の根元に触れるほど近くで流した。
木剣が地面にぶつかり、鈍い衝撃音が響く。
ヴィンセントの体勢が前に崩れた。
その瞬間ルイーズが動いた。
砂を蹴る音すら聞こえない。
観客の視界から一瞬、姿が消えたように見えた。
次の瞬間、 木剣がヴィンセントの脇腹に吸い込まれるように当たった。
乾いた音。
静寂。
「そこまで」
グレイの声が響いた。
観客席が一瞬、凍りついたように静まり返った。
そして――爆発した。
「勝った……」
「押されていたのに……!」
「何が起きたかわからなかった!」
ヴィンセントが体勢を立て直し、しばらく黙っていた。
その大きな胸が上下している。
「さすがだな」 低い声で言った。
「見えなかった」
「ありがとうございました」ルイーズが言った。
「試合では勝てんな」ヴィンセントは木剣を下ろした。
「行きましょうか」レントがリナに言った。
「はい」
二人でルイーズのところに向かった。
ルイーズがレントとリナを見た。
「どうでした?」ルイーズが言った。
「ルイーズさん、すごかったです。負けることが想像できません」
「うん、いつも通りだったと思うよ。速くて隙がない」
「格好良かったです」リナが言った。
「ヴィンセントさんでなくとも、勝てる人いるんですか」
ルイーズがリナを見た。
「いてはいけないのよ。本来ならね」
ルイーズはそう言って僕を見た。
リナは何かを察したようだった。
「私は行きますね」リナは歩き出していた。
レントはルイーズを見た。
「お祝いの話をしましょう。僕は怖がられている様なので2人でどうでしょうか」
「噂のことね。レントやソラのことを知らなければ、そうなるのかもしれないわね」
「いいわ。2人でいきましょう、3人かしらね。エスコートしてくださる?」
「もちろん。考えとくよ」
「ルイーズ、おめでとうございます」
ソラが普通に喋った。
「あ、私にも喋ってくれるのね。認められた気がして嬉しいわ」
「私もルイーズと話せるのは嬉しいです」
「ねぇレント、どうしてソラとそのよくわからない言語で話しているの?」
「うーん、それは家族にも言ってないんだ。
でも、いつかルイーズに話せたらどんなに良いかと思うよ」
ソラが何も言わなかった。
「わかったわ、もう聞かない。お祝い楽しみにしているわね」




