恐怖の存在
「あなた、魔法がすごいのだから実技で使ってはどうですか」
放課後のお茶の席でアメリアが言った。
「婚約者として、実力で周りを納得させてほしいのです」
レントはお茶を一口飲んだ。
「うーん、みんなの訓練にならないと思いますけど」
「そういうことではなくて」
「わかっています」
アメリアが深呼吸した。
その夜ソラと話した。
『どう思う』
『アメリアさんの言うことは理解できます』
ソラが言った。
『ただ、使うなら覚悟が必要です』
『どういう意味』
『今は魔法がすごいらしいぐらいですが、本気を見せれば、恐れられます。
恐れは拒絶か依存を生むでしょう』
『それはわかってる』
『わかった上でどうするか、レンさんの選択です』
『ただ、僕が戦力になると思われれば、ルイーズの負担が減る気がするんだ』
『それは、どちらとも言い難いです』
『どうして?』
『ルイーズさんの戦場での負担は確かに減るでしょう。しかし、レンさんがルイーズさんよりすごいとなった時、何を言われるかわかりません』
『それは、その時考えるよ』
次の実技の時間、グレイの授業だった。
アメリアが授業の前にグレイに近づいた。
「先生、レントは魔法を使えば先生でも勝てないと思いますわ」
グレイが少し目を細めた。
授業が始まる前、ルイーズに小声で聞いた。
「どう思う」
「私もそう思います」ルイーズが言った。
「レントの好きにやってみれば?どうせ本気は出せないでしょ」
アメリアがこっちを見ていた。
何か言いたそうだったが、言わなかった。
「そのすごい魔法使いと戦いたいやつはいるか」
グレイが全員を見渡した。
レビンが前に出た。
「やります」
グレイがレントを見た。
「王城での話は聞いているが、やりすぎるな」
「はい。怪我はさせません」
「まあ、あまりひどいことにはするなよ」
二人が中央に向かい合って立った。
「始め」
空気を圧縮する。
ボールほどの大きさ。
弱めに。
レビンに向けて見えない弾を放つ。
レビンが構えた。
そのまま当たった。
よろけた。
二発目。
レビンが避けようとするがどちらに動いていいかわからないようだった。
また当たった。
三発目。
レビンが前に出ようとした。
近づけば何とかなると思ったのかもしれない。
四発目、五発目、六発目。
連続で放つ。
レビンが止まった。
一歩も前に進めない。
指で撃つ仕草をした。
本当はいらない。
七発目、八発目。
レビンが後退した。
前に出ることも、逃げることもできなかった。
ただ当たり続けた。
「先生」レントが思わず声をかけた。
「そこまで」グレイが言った。
静かだった。
誰も何も言わなかった。
やりすぎたかもしれない、と思った。
グレイが腕を組んだ。
「訓練にならんな。本気じゃないんだろ」
「はい」
グレイが頷いた。
それだけだった。
アメリアが近づいてきた。
「さすがですわね」アメリアが周りに聞こえるように言った。
「あなたがいれば国は安泰ですね」
周りがざわめいた。
彼は敵じゃない、そんな空気が流れた。
アメリアはすごいなと思うと同時に少しほっとした。
レビンは青い顔で立ちすくんでいた。
オスカー・レインが近づいた。
レビンとよく一緒にいる男だった。
「レビン、医務室行こう」
レビンが頷いた。
二人が歩いて行った。
その日の夜、学園長室では会話があった。
「見ましたか」グレイが言った。
「ええ、見ました」学園長が言った。
「恐ろしい魔法です。1体1では勝てる人間はいないでしょう」
グレイが言った。
「国の良い道具になりそうですね。どこかに逃げない限り」
学園長が言った。
「私もそう思います。どうなさるおつもりですか」
「少なくとも学生の間は守ってあげてください」
学園長が言った。
グレイが少し考えた。
「あいつしか使えないのが、いいのか悪いのか」
「常識が吹っ飛んでしまいましたね」
学園長が窓の外を見た。「ただ、それがこの国を救うかもしれません」
「問題があるとすれば、魔族の脅威があるうちは頼もしい味方、脅威がなくなれば彼が脅威になります」




