アメリアの生き方
放課後、アメリアをレントからお茶に誘った。
いつもの応接室。
リディアとナディアは席を外した。
お茶をアメリアが一口飲んだ。
深呼吸した、呼吸音が聞こえてきた。
「先日はルイーズ様と街に行かれたとか」
「はい」
「私をお誘いいただけないのかしら」
「いえ、そんなことは。次回一緒に行きましょう」
アメリアが少し目を細めた。
「そういうことではなくて」
「何が違いますか」
アメリアが少し考えた。「優先順位の話です」
「アメリアが優先されるべきだということですか」
「婚約者ですから」
レントはお茶を一口飲んだ。
「一つ聞いていいですか」
「何でしょう」
「アメリアはなぜ僕と結婚したいんですか」
アメリアが少し固まった。
「意味がよくわかりませんが」
「そのままの意味です。なぜ結婚したいのか、なぜ僕でないといけないのか」
アメリアが背筋を伸ばした。
「王族として、婚姻は国の安定につながります。
優秀な伴侶を持つことで王家の力が増す。
あなたは王にも認められ、精霊の加護を受けた。婚約者として申し分ない方です」
「それはわかります」レントが言った。
「でもそれはアメリアの意見じゃないですよね」
アメリアが黙った。
「今言ったことは全部、誰かに教わったことでしょう。王族としてとか国としてとか、そういう理由」
「アメリア自身はどう思っているんですか」
「王族の私が個人の感情を優先するわけにはいけません。責任があります」
「今は二人だけです。僕はアメリアの本音を聞きたいです」
アメリアがお茶のカップを見た。
しばらく沈黙があった。
「私は」アメリアが言った。「よくわかりません」
「何が」
「正直に言えば、国のためになるのであれば、あなたでなくても構いません。
その為に私はいるのですから」
レントは黙っていた。
「ただ」アメリアが続けた。
「ルイーズ様と一緒に過ごしていると聞いて、落ち着きません」
「ルイーズとは国を守るため、強くなるために訓練をしているだけです」
「それは理解しています」アメリアが言った。
「私が皆の期待に応えられていないからかもしれません」
「アメリアは王位を継ぐわけではないですよね」レントが言った。
「お兄様がいますから」
「そうです」アメリアははっきりと肯定した。
「なら、そこまで気にされなくとも良いのではないですか」
「父はもちろんリディアやナディアでさえ、私がレントと婚約することを期待しています」
「期待に応えてきたから、父にも認められています」
「僕はアメリアが王族でなくても尊重します」
「でも私には」アメリアが少し顔を赤くしながら言った。
「自分が望むことが何なのか、正直わかりません。
ずっとそうやって生きてきたので」
レントはアメリアを見た。
「僕は王女ではなくアメリアとして生きて欲しいです」
アメリアが少し間を置いた。
「それは不可能です。なぜなら私は第一王女ですから。
クララの見本にもならないといけません」
「無理と決めれば無理でしょうね」
アメリアが何か言いかけた。やめた。
お茶が冷めていた。
部屋に戻ってソラと話した。
『アメリアはなぜ結婚したいかわからないと言っていた』
『そうですね』ソラが言った。
『最初にアメリアについて話した時のことを覚えていますか』
『当たり前に思い通りになってきた人の思考、と言っていたね』
『はい。それに加えて、幼い頃から王族として期待に応えることを教えられてきたのだと思います。自分の感情より役割を優先するように育てられれば、自分が何を望んでいるのかわからなくなります』
『王女として育てられた、ということか。国の道具なのかな』
『どのような意図があったのかはわかりません。ただ結果としてそうなっています』
レントは少し黙った。
『かわいそうだな』
『それはレンさんにはわかりません。本人が考えることです』ソラが言った。
『でも、レンさんの思い通りにしたくなったら気をつけてください。
それがアメリアさんが周りからされていることですから』
『わかってる、でも何かしたい』
『レンさんの考えは伝えてください。それを受け取るのも受け取らないのもアメリアさんの選択です』
窓の外で風が動いた。




