勝者の歴史
夜、部屋でソラと話した。
『ルイーズはすごいね』
『はい。本物だと思います』
『でも戦場に一人で行かせるのは心配だな』
ソラが少し間を置いた。
『だから一緒に行くのではないですか』
レントは天井を見た。
『そうだね。できるだけ行かないことを考えていたんだけど』
『行かないことが最善とは限りません』
『そうかもしれない』
窓の外で風が動いた。
『ルイーズのことは、できるだけ考えたい』
『はい』
翌日の午前は歴史の座学だった。
王国の成り立ちから始まった。
初代勇者が魔族を退けた。
その功績で王の地位を与えられた。
それが現在の王家の始まりだという。
レントはノートを取りながらソラに日本語で言った。
『ソラ、これは調べた歴史と合ってる?』
『概ね事実と適合しています』ソラが言った。『ただ』
『ただなに?』
『恣意的な改変が行われています。王を無条件に肯定するような書き方になっています。初代勇者の功績は大きかったと思いますが、
その後継者たちが同じ正当性を持つかどうかは別の話です』
『学園では正当性があるように教えている』
『王族と貴族の正当性を次の世代に植え付けているということです。
おそらく庶民にも同様な教育が行われているでしょう。なにも疑問を持たないように』
レントは黒板を見た。
教官が図を書いていた。
『それはわかった。だからと言って革命なんかする気はないよ』
『はい』
休み時間に図書室でソラと話し続けた。
『一つ気になることがあります』ソラが言った。
『なに』
『歴代の勇者の記録を調べましたが、初代以外は全員、
戦場かもしくは戦場で受けた傷が原因で亡くなっています』
レントは手が止まった。
『全員?』
『例外はありませんでした』
『どう考える?』
『力を持つ者を、用が済んだ後に排除したとも考えられます。
もちろん戦争が原因の可能性も。どちらかは判断できません』
レントはしばらく黙っていた。
ルイーズの顔が頭に浮かんだ。
あの落ち着いた目。
昨日の訓練の後、抱きしめてきた時の顔。
なぜかルイーズがかわいそうだと思った。
まるで家族がツラい目にあっているような感覚だった。
『レンさん』ソラが言った。
『うん』
『エドワード様も言っていました。立ち位置は自分で決めろ、自分がどうしたいかをよく考えろと』
午後の実技はグレイの授業だった。
今日は自由組み手だった。希望する者が前に出て相手を指定する形だった。
「カルヴィン」
声がした。
振り返ると、背の高い男が立っていた。
レビン・オーラだった。
「手合わせを」レビンが言った。
「ええ、お願いします」
木剣を構えた。
レビンが来た。
毎朝一緒に訓練しているエリックやセバスチャンほどではなかった。
でも無駄のない動きに見えた。
捌いて、反撃した。
レントが押した。レビンが下がった。
終始レントが押していた。
レビンがさらに下がった。
しばらくして二人が離れた。
「もう一度やろう」レビンが言った。
今度はレビンの動きが変わった。
少しだけ速くなった。本気を出してきたのだろう。
少し押されたけど、簡単に押し返した。
「くそ、ちょこまかと」
レビンが上から剣を振り下ろした、レントは右に回り込んで脇腹に一本打ち込んだ。
レビンが後退して、そのまましゃがみ込んだ。
レントが木剣を下ろした。
レビンが立ち上がって、レントを一度見た。
「随分と人が集まるんだな、お前のところに」
それだけ言って、去った。
グレイがずっと見ていたが、何も言わなかった。
授業が終わってから、ソラが言った。
『レビンさん、何か思うことがあるようですね』
『うん、何かしたほうがいいと思う?』
『ほっておいていいと思います』
『うーん、仲間を作りたいんだけどね』レントは歩きながら言った。
『人をコントロールすることはできませんよ』
『そういう意味じゃないんだけど』
アメリアの取り巻きがきた、名前なんだっけ。
お茶の時に聞いてみよう。
廊下の窓から外が見えた。
夕日が訓練場を染めていた。




