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いい匂いと青い鳥と魔法の話  作者: かわいかつひと


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勇者の安息の地

授業中、落ち着かなかった。

放課後のことが気になっていた。

席に座っていても、レントのいい匂いがしてくる。

前の席だからだろうか。

いや、教室全体に漂っているような気がする。

みんなは気にならないのだろうか。

たぶん気になっている。


レントの周りに人が集まってくるのは匂いのせいだと思う。

まだ直接話しかける人は少ないのに、なぜか視線が集まる。

自然と人が近くに来る。


レントは精霊様と何かを話していた。

あの不思議な言葉。

精霊語というのだろうか。

何を言っているのかまったくわからない。

それでもなぜか二人の会話は楽しそうに見えた。

どうも落ち着かなかった。



放課後、教室を出ようとしたところでレントがアメリア様と話しているのが見えた。

お茶に誘われているようだった。

レントが断った。

アメリア様の顔が変わった。

怒っているようだった。

何か言っている。レントが答えていた。

私と約束があると言っているらしかった。

そうだけど。

確かにそうだけど。


気まずくなって教室の外に出ようとした。

「待って、ルイーズ。一緒に行こう」

振り返ると、レントが手を引いてきた。

教室中の視線がこちらに集まった。

アメリア様もこちらを見ていた。


レントはそれを気にするそぶりもなかった。

「やっぱり訓練所にしようと思って」

「訓練所」

「ルイーズの訓練になることを思いついたから」

訓練所。

どういう放課後なのか。

アメリア様のお茶を断ったのは、私とのお茶のためじゃなかったのか。



そこから記憶がない。

気がつくと動きやすい服に着替えていた。


どうしてこうなるのか。

後でいっぱい匂いを堪能させてもらわないと割に合わない、とルイーズは思った。


「僕の攻撃魔法を使えば、ルイーズの訓練になると思って」レントが言った。

「まず見えない攻撃から試していいですか」

「もう、好きにしてください」


何も見えなかった。

一瞬で正気に戻った。

次の瞬間、体が後退していた。

体に衝撃だけがあった。

「これは避けられないですね」レントが言った。

「じゃあ小さな炎にします。見えるようにするから」

今度は見えた。

小さな炎の塊が飛んでくる。

速い。

でも見える。

叩き落とした。

小さな衝撃があった。


「さすがですね」レントが嬉しそうに言った。

「じゃあ次」

また来た。叩き落とした。

「次」また来た。

「次」また来た。

速くなっていた。

それでも叩き落とせた。

そういえば試験の時、魔法をずっと維持していたことを思い出した。


「じゃあ連続で行きます」

なんでレントはこんなにも嬉しそうなのか。


複数の炎の玉が同時に来た。

一発、当たった。

大したダメージではなかった。少し熱い程度だった。

でも、もしこれが見えない攻撃だったら。

もし本気の威力だったら。

冷や汗が出てきた。


「じゃあ剣も使います」

レントが踏み込んできた。

木剣と炎が同時に来た。

炎を叩き落とそうとすれば剣が来る。

剣を捌こうとすれば炎が来る。


まだ攻撃のパターンが定まっていないのはわかった。

レントもまだ手探りなのだろう。

でもこれが確立されたら。

対処のしようがないと思った。


踏み込んできたレントにカウンターを合わせた。

レントが倒れた。

「やっぱりルイーズはすごいですね」

レントが地面から言った。


なんとか勝てて、ほっとした。

同時に、自分はレントには勝てないだろうと思った。

でも不思議なことに、悔しくなかった。

どちらかといえば安心した。

それは心の底からの安堵に感じた。



私は一人じゃない。

全部自分が背負わなくてもいい。

全身の力が抜けていく、そんな感覚だった。


気がついたらレントを抱きしめていた。

思わず深呼吸をした。

「それ、母さんによくやられたやつだ」レントが言った。

顔が熱くなった。

「ち、違います」

「何が違うんですか」

「違うんです」

「いいんですよ。小さい頃からよく匂いを嗅がれていました」

勘違いされた、のか?

自分でもよくわからないから、結局説明できなかった。



ベッドに横になって今日のことを思い出した。

レントは勇者の私より強いだろう。

どれだけ訓練しても追いつけるかわからない。

そんなことを考えていたら、涙が止まらなくなってきた。

どれくらい泣いたのか、気づいたら朝になっていた。


勇者と言われてから、はじめてぐっすり眠れたことに気づいた。

今まで眠れていなかった事も。

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