勇者が誰よりも速い件
翌朝、ルイーズと合流して訓練所に向かった。
すでにレナードたちが来ていた。
エリックとセバスチャンがルイーズを見る。
セバスチャンが小声で何か言い、エリックが頷いた。
「始めようか」レナードが言った。
「まずはバフなしだ」
最初はルイーズ対エリックだ。
エリックが踏み込んだ瞬間、砂が前に散った。
重心が前足に乗り、斬撃の軌道が一直線になった。
ルイーズは一歩も引かない。
木剣の角度をわずかに傾け、エリックの斬撃の刀線を外した。
力を受けず、軌道だけをずらす正確な受け流し、きれいだった。
エリックが押す。
ルイーズは押し返さない。
力を真っ向から受けず、接触点を滑らせて空振りに変える。
次の瞬間、ルイーズの足が砂を軽く払った。
重心が沈み、エリックの腕の戻り際に木剣が差し込まれる。
カウンター。
エリックの体が後ろに浮いた。
「参った」
エリックは息を整えながら言った。
セバスチャンも挑んだが、同じだった。
二人ともルイーズを理解する前に崩されていた。
「面白い、次は俺だな」
レナードが前に出る。
構えた瞬間、重心が低く、軸がぶれない。
熟練者の立ち方だ。
レナードが押す。
ルイーズが受ける。
木剣がぶつかるたび、衝撃が地面に逃げるような音がした。
ルイーズが攻める。
レナードが捌く。
互いに間合いを奪い合う攻防。
だが、ルイーズの呼吸は乱れない。
攻撃の直前に息を吐き、受ける瞬間に吸う。
動きに無駄がなく、どこか余裕がある。
しばらくして二人が木剣を下ろした。
「強いな」レナードが言った。
それだけだった。
レントの番が来た。
ルイーズが構えた瞬間、空気が変わった。
速い。
これまでの誰よりも速い。
ルイーズの踏み込みは前に出るのではなく、
重心を滑らせるように移動する。
だから動きに無駄がない。
レントは反射的に捌いた。
ぎりぎりだった。
腕に衝撃が残る。
反撃した。
だがルイーズは刃筋を合わせず、力の向きだけを外された。
そのまま押し返され、気づけば壁際。
凌いでいるのか、手加減されているのかすらわからない。
木剣を下ろした。
まったく敵う気がしなかった。
レナードが構えた。
「手加減はするな。本気を見たい」
「わかりました」
ルイーズが踏み込んだ瞬間、砂が後ろに吹き飛んだ。
重心移動の速さがそのまま速度になっている。
レナードが反応する前に、二度、木剣がぶつかった。
斬撃ではなく、間合いを奪うための打ち込みだ。
「スピードはさすがだ」レナードが言った。
「ただパワーが足りない」
「はい、自覚しています」
「しかし、ここまで差があると訓練にならんな。バフをかけてみろ。ルイーズ以外に」
「ルイーズ少し休むか?」レナードが声をかけた。
「いえ、このまま行かせてください」
レナード、エリック、セバスチャン、レントにバフをかけた。
バフがかかった瞬間、エリックの踏み込みが速くなる。
だがルイーズはその速度を予測しているかのように、
最短距離で刀線を外す。
セバスチャンも同じだった。
レナードが出る。
バフありのレナードは重心がさらに低く、
一撃ごとの圧が段違い。
木剣がぶつかるたび、
衝撃が地面に伝わり、砂が跳ねた。
だがルイーズは、
力の流れを読むように受け流し、
崩れた瞬間だけを狙って打ち込む。
最後に木剣を下ろしたのはレナードだった。
「さすがだ」
「だがパワーがない分、戦場では苦労するかもしれん。バフが鍵になるだろう」
「ルイーズもバフをかけた状態で訓練すべきじゃないか?」
セバスチャンが言った。
「確かにそうだ」レナードが言った。
「しかしルイーズの訓練相手がいなくなってしまう」
「レナード様、お心遣いありがとうございます」
ルイーズが言った。
「一緒に訓練できるだけでありがたいです」
「そうか。とりあえず来れる日は来てくれ。こちらもありがたい」
疲れた後に匂ってくるレントの香りはとてもリラックスできて心地良いとルイーズは感じていた。
名残惜しいが着替えに行こうと思ったルイーズはレントから呼ばれた。
「ルイーズ、授業が終わったら僕と付き合ってよ」
もっと匂いを嗅いでいたいと思ったルイーズは、
気持ちを見透かされたかと思って焦った。
「つ、付き合うってどういうことですか」
「うーん、場所は考えとくから、放課後いいかな」
「え、ええ、いいわよ」
「じゃあ、また教室で」
「あ、えっと、うん」
『レンさん、アメリアさんに怒られますよ』
『え、どうして?勇者を強化するのは国にとってもいいでしょ』
『エアブラストでルイーズの本気を出せるんじゃないかと思ったんだ』
『そうですか。そんな感じですか』
ソラの返答が気にならないぐらい、午後の訓練が楽しみだった。




