新しい生活
王都までの道は前回より早く感じた。
行く先々でのストレスがなかったからかもしれない。
途中で宿泊した宿では、どこでも良い部屋に案内された。
一番いい部屋だと言われた宿もあった。
「なぜでしょう」とレントが聞くと、宿の主人が少し考えてから
「何かそうしたくなるお客様で」と言った。
『いい匂い効果ですかね』ソラが言った。
『そうかもね』
王都に着いた。
今度はハーウィン伯爵家の屋敷ではなく、学園の寄宿舎だった。
王城から少し離れた場所に学園はあった。
石造りの大きな建物だった。
門をくぐると、中年の女性が待っていた。
「カルヴィン様ですね。寮長のベアトリスです」
きびきびした口調だった。
「部屋へご案内します」
部屋は二階だった。窓から庭が見えた。
「食事は一階の食堂です、いらない場合は申告が必要です。起床と消灯の時間は守ってください。それ以外は自由です」
「ありがとうございます」
「精霊様ですね。お会いできて光栄です」
ベアトリスが少し間を置いた。
「精霊様はどうぞ好きなようお過ごしください」
『ありがとう』
「ありがとうと言っています」
ベアトリスが笑顔で出て行った。
荷物を片付けて、窓から外に目をやる。
庭に木が並んでいた。
ソラが窓枠に止まった。
『静かですね』
『そうだね。入学式まであと三日か』
のんびりしていた。
そんな時に誰かが扉をノックした。
「アメリア様がお呼びです。応接室までご案内します」
王女付きの侍女だった。
応接室は学園の一階にあった。
扉を開けると、アメリアが椅子に座っていた。
取り巻きが二人いた。
「久しぶりね」アメリアが言って、深呼吸した。
「はい、お久しぶりです」
「なぜ挨拶に来なかったのかしら。婚約者でしょ」
レントは少し間を置いた。
「まだ決まってはいないと思いますが」
「決まったようなものでしょう」アメリアが言った。
決定事項のような口調だった。
疑いがない、選ばれないことを考えていないというより、考えられないようだった。
レントはソラを見た。
『王に似ています』ソラが言った。
『当たり前に思い通りになってきた方の思考かもしれません』
『まいったなぁ。どうすればいいかわかんないよ』
『断られる経験を積ませればどうですか』
アメリアが続けた。「学園を案内してあげるわ。ソラも一緒に」
「ありがとうございます。ソラはどうする?」
『このまま肩に乗って観察してます』
「ご一緒します」
アメリアが立ち上がった。
取り巻きの二人も立った。
四人とソラで廊下に出た。
学園はずいぶんと広かった。
アメリアが歩きながら説明した。
止まらなかった。
「こちらが剣術の訓練場。男子が中心だけど女子も使えるわ。
こちらが魔法の実習室。こちらが図書室、私はよく使うわ。
食堂は一階。外の庭は自由に使えるけど夜は閉まるの」
「はい」
「入学式は三日後。私が代表挨拶をするの」アメリアが少し胸を張った。
「そうなんですか。すごいですね」
「当然です」アメリアが言った。
「それとクラス分けがあるわ。試験の成績で決まる。一クラス十五人で五クラス。
あなた、何としても同じクラスになりなさい」
「試験の結果次第では」
「なりなさい」
レントは少し考えた。「頑張ります」
「頑張るではなく、なりなさい」
取り巻きの一人が小さく笑った。
アメリアが振り向いた。取り巻きが顔を戻した。
「科目は歴史、外交、戦術、魔法の4科目よ。
男子はそれに実技が加わるの。総合点でクラスが決まる。
上から順にAからEまで。私はAクラスよ、当然だけど」
「当然なんですか」
「当たり前です」アメリアが言った。
「あなたも当然Aクラスになりなさい」
レントはソラを見た。
『歴史、算術、外交、戦術は確認しましょう』ソラが言った。
『剣術と魔法は問題ないと思います』
『今夜やろう』
「何を話しているのですか」アメリアが聞いた。
「わかる言葉で話しなさい」
「試験の対策を相談していました」
アメリアが少し目を細めた。「そう、そんなこともできるのね」
「いつも助けてもらっています」
「とにかく、私たちは結果が大切です。それが権威につながります」
取り巻きの二人がレントを見た。
『そんなものいらないけどね』
『権力などは実体のないものがほとんどですから、仕方ありません』
「わかる言葉で話しなさい」深呼吸したアメリアがそう言った。
部屋に戻ってから、ソラに言った。
『アメリアは変わらないね』
『はい。でも悪い人ではないと思います』
レントは窓の外を見た。庭の木が夕日で赤くなっていた。
『そうかもしれないけど、どう答えていいかわからない時が多いよ』
『アメリア様は教えられた正しさでレンさんを守ろうとしているだけです』
『それに従う必要はありませんが、その視点で考えてみてください』




