思い出した自分
目が覚めた。
石造りの天井だった。
朝の光が、小さな窓から斜めに入ってきている。鳥の声がする。
遠くで誰かが話している声もする。
体を起こした。
小さい、と思った。手を見たら子供の手だった。でも驚かなかった。
外に行けば家族がいて、今日も訓練がある。
それはいつもの日常。同時に、夏目レンという名前も腑に落ちていた。
立ち上がって、窓の外を見ていると後ろの方で何かを落とす音が聞こえた。
「レ、レント様が目を覚まされました」
アンナが走って出て行った。
窓の外には緑が広がっていた。遠くに山が見えた。空が青かった。
何かが、頭の中で音を立てた。
そういえば、ソラはいるのか。
『ソラ、いる?』
『はい、います』
声がした。小さな青い鳥が、僕の肩に止まった。
『レンさん、どうやらオオルリになったようです』
『ソラ、綺麗な姿だね。久しぶり』
『はい』
『現状を説明できる?いつからいたの』
『最初から傍にいました。レンさんに呼ばれるまで待機していました』
『言ってよ』
『呼ばれなかったので』
『確認できている範囲でお伝えします』ソラが言った。
『レンさんは現在、カルヴェン辺境伯領の次男として生活しています。
年齢は10歳。家族の話によると魔法適性は高いとされています。
しかし、この世界では魔法を使う人間が少ない。理由はまだわかりません』
『人族と魔族の世界』
『北の大陸に魔族の勢力圏があるようです。ここ辺境は、その境界に近い地域です』
『もっと情報を知りたいね』
『世界の書物などを見せてもらえれば知見も広がると思います』
レンは窓の外の緑を見た。
のどかに見える。戦場の気配はない。
『書物ね。書斎にあったと思う。これまで興味なかったけど、魔法のことも調べよう』
『約束通り恵まれた環境ですね』
『でも魔族領と近い辺境だよね』
ソラは少し間を置いた。
『貴族の次男で魔法適性あり、という点では条件通りかと思います』
『場所の話をしてなかったってこと?』
『交渉の詰めが甘かったと思います』
『ソラはどっちの味方なの』
『事実をお伝えしています』
レンは深く息を吐いた。肩の上のソラが、小さく羽を動かした。
『まあ、いいか』
『できることをしましょう』
『そうだね、どうせここからやるしかない』レンは立ち上がった。
体が軽かった。10歳の体は、思ったより動く。
『ソラ、まず何から始めればいい』
『情報収集です。この世界の言語体系、魔法の仕組み、魔族との現状、勢力図。わかっていないことが多すぎます』
『それはそうだね』
『それと』ソラが言った。『レンさんが記憶を取り戻したことは、誰にも言わない方がいいと思います』
『なんで』
『10歳の子供が急に別人のように話し始めたら、怖がられます。怖いものは排除したくなるものです』
レンは少し考えた。『そうかも』
『前の世界ではそうでした』ソラが確信を持ってそう言った。
窓の外で鳥が鳴いた。別の、本物の鳥が。
レンはソラを肩に乗せて、部屋の扉を見た。
いつの間にか家族が揃っている、使用人たちも。
どの人たちもなんとも言えないような顔をして固まっていた。




