研究の始まり
三人が到着したのは、手紙から半月ほど経ったころだった。
馬車から降りてきたガイアが屋敷を見上げた。「立派なお屋敷です」
「どうぞ入ってください」レントは恭しくそう言った。
3人の荷物を運び込んで、準備した部屋を案内した。
ガイアが部屋を見回した。「十分すぎます」
オルテガが窓から外を見た。「庭が広い」
マッシュが研究室を覗いた。「ここからか」
「家が決まるまで、しばらく使ってください。
使いやすいように変えてもらって構いません」
三人が顔を見合わせた。
「では」ガイアが言った。「早速ですが」
「荷解きは」レントが聞いた。
「後で構いません」ガイアが言った。
「聞きたいことが山ほどあります」
オルテガとマッシュも頷いた。
レントはソラを見た。ソラが小さく羽を動かした。
『予想通りの反応ですね』
「わかりました。では研究室に案内します」
三人が机の前に座った。レントも座った。
ソラが棚の上に止まった。
「まず確認させてください」ガイアが言った。
「空間に魔力が循環しているというのは、本当に見えるのですか」
「見えるというより、感じます。
ソラに言われてから意識するようになってわかるようになりました」
「我々にはまだ感じられません」オルテガが言った。
「昨日も今朝も試しましたが」
「僕も最初はそうでした」
「理論としては理解できます」ガイアが続けた。
「ただ実際に使えるかどうかは、また別の話で」
「一つ試してもらえますか」レントが言った。
「体内の魔力を全部使い切ってみてください」
三人が顔を見合わせた。
「全部ですか」マッシュが言った。
「はい。それから空間の魔力を感じようとしてみてください。
空っぽになった状態の方が気づきやすいかもしれないので」
三人がそれぞれ魔法を使い始めた。
光を出したり、風を起こしたり。少しして、三人とも止まった。
「枯渇しました」ガイアが言った。
「今、空間を感じてみてください」
しばらく静かだった。
「わかりません」ガイアが言った。
「うーん、わかりません」オルテガが言った。
マッシュが目を閉じたまま言った。「何か、あるような」
全員がマッシュを見た。
「あるような、気がするだけかもしれません」マッシュが目を開けた。
「はっきりとは....」
『レンさん』ソラが日本語で言った。『必ずわかるはずですから』
『体内の魔力を補充することはできるかもしれません。
空間から少しだけ取り込む感じで』
そのままの言葉を3人に伝えた。
「補充」ガイアが繰り返した。「今まで考えたこともありませんでした」
「試してみてください。焦らなくていいですから、僕もだいぶ時間かかりました。約一年」
「一年」オルテガが言った。「レント様も」
「ソラがいなければ諦めていたと思います」
三人が少し黙った。
ガイアが言った。「補充ができれば、これまでとは全然違います。
たとえ弱い魔法でも、使い続けられるなら」
「大規模な魔法は難しいと思います。でも今まで一瞬しか使えなかったものが、
ある程度続けて使えるようになるかもしれない」
三人がまた顔を見合わせた。今度は目が輝いていた。
「一つ、教えていいですか」レントが言った。
「なんでしょう」
「治癒魔法です」
三人が黙った。
「王都では見せませんでした。秘密にしています。
ここでも口外しないでもらえますか」
「もちろんです」ガイアが言った。
「ただ、なぜ我々に」
「一緒に研究したいからです。
それと、戦場で使えるようになれば意味があると思って」
ガイアが頷いた。「見せてもらえますか」
レントはマッシュの手を見た。「少し切り傷を作ってもらえますか」
「え」
「大丈夫です、何度かやっています」
レントが自信を持ってそう言った。
マッシュが小刀で指先を少し切った。血が出た。
レントが治癒するイメージをして、ソラが顕現する。
マッシュの指先に光が当たった。傷が閉じていく。
三人が息を呑んで黙っていた。
ガイアが口を開いた。「これは」
「おそらく治癒の概念がなかっただけだと思うのですが」
「もし戦場で使うことができれば」
「死ななくて済む人が増えると思います」
ガイアがレントを見た。
しばらく見ていた。
「なぜ王に見せなかったのですか」
「大きすぎる力は厄介なので」
『依存されますから』
ガイアが少し笑った。
「そうかもしれません。ソラ様は何と?」
「依存されると」
「確かにそうですな。しかし我々も使えれば、問題はなくなりますな」
その日の午後から、お互いの研究が始まった。
ガイアたちが攻撃魔法の理論をレントに伝えた。
衝撃波、熱線、電磁場。レントが知らなかったものがたくさんあった。
『ソラ、全部記録しておいて』
『はい』
レントが治癒魔法の仕組みを説明し、ガイアたちは魔力に補充の練習を始めた。
マッシュが一番手応えを感じているようだった。
夜になっても誰も部屋を出なかった。
アンナが夕食を持ってきた。研究室の扉を開けて固まった。
四人とソラが机を囲んでいた。
「夕食です」アンナが言った。
四人が顔を上げた。ガイアが窓を見た。
「もうそんな時間ですか」
「はい、こちらに置いておきます。
食事が済みましたら廊下に置いておいてください」
「ありがとうございます」オルテガがそう言った。
アンナが料理を並べながらレントを見た。
それからガイアたちを見た。
何か言いたそうだったが、言わずに出て行った。




