帰ってきた場所
屋敷が見えたとき、シャーロットが庭に出ていた。
馬車に気づいたらしく、こちらに向かって走ってきた。
扉が開く前に声がした。「ソラ、いる?」
レント兄様いる?、ではなかった。
馬車から降りると、シャーロットがレントを見た。
「おかえり兄様」それからソラを見た。「おかえりソラ」
ソラがシャーロットの肩に止まった。
シャーロットが目を細めた。「会いたかった」
「私もです」
シャーロットが顔を赤くした。
「嬉しいわ」
「ソラ、王都はどうだった」
「ここの方が好きです」
「何があったの」シャーロットが心配そうな顔を見せた。
「いろいろとね」レントが言った。「中に入ってから話すよ」
夕食の後、エレノアがレントを呼んだ。
「少し聞かせてもらえるかしら」
二人で応接室に座った。
エレノア自身がお茶を注いだ。
これが当たり前だったから、他の貴族は違うかもしれないことを覚えておかなくては。
「王女様たちを、どう見ましたか」
「アメリア王女は落ち着いた方です。物事をよく見ている感じがしました」
「クララ王女は」
「素直な方です。思ったことをそのまま言います」
エレノアが少し考えた。「婚約の話は聞きましたか」
「はい、父上からも、王女様方からも」
「あなたがどう思うかわかりませんが、あなたは羨ましがられる立場にあります」
レントは少し考えた。「そうかもしれません。まだ実感はありませんが」
エレノアが頷いた。「そうなのです。それを知った上で行動した方が後々楽です」
お茶を一口飲んだ。それからもう一口飲んだ。
「アメリア王女と、クララ王女と、どちらが先に話しかけてきましたか」
「クララ王女です」
エレノアが頷いた。
「レント」
「はい」
「お茶会の後、どちらかと二人きりで話しましたか」
「いえ、なっておりません」
エレノアが頷いた。「そうですか」
それ以上は何も聞かれなかった。
レントは応接室を出てからソラに聞いた。
『何を確認したかったんだろう』
『母親としての確認だと思います』
『何の』
『レンさんと結婚すれば義娘になる訳ですから』
レントは少し考えた。
『それもそうか。気になるよね』
『はい。そういうものだと思います』
王都から手紙が来たのは、帰還から十日ほど経ったころだった。
ガイアからだった。
丁寧な文字で書かれていた。
根回しの礼とカルヴィン領への移住を許可されたこと、三人で準備を整えて来月には出発できること。
レントはエドワードに見せた。
「わかった」エドワードが言った。
「3人の家と研究室の準備を手配しておこう」
「ありがとうございます」
「細かいところはお前に任せる」
レントは屋敷を見て回った。ソラも一緒に飛んでいた。
『研究室は新たに作らなくても、この部屋空いてる部屋はどうですか』北向きの広い部屋だった。
「光が入らないから研究には向いてるかもしれない」
『隣の部屋と繋げれば寝泊まりもできます』
「三人分か」
『家も別に用意するのであれば簡易的なものでいいでしょう』
『そうだね。細かいことは3人が来てから決めればいいか』
『リーダーは少し距離がある方がいいかもしれません』
『そんな考えもあるんだ』
『前の世界の組織論です。間違っていると言われてましたが』
『間違っていること言わないでよ』
『この世界には合ってそうです』
レントは廊下を歩きながら笑った。
研究室は決めた。アンナとマギーに片付けを頼んだ。
二人とも嬉しそうだった。
風が冷たくなり始めたのは、それから少し経ったころだった。
辺境の冬は早い、とはいえ温暖な気候なので冬と言える季節は来ない。
シャーロットがソラを肩に乗せて庭に出ていた。
ソラが庭の上を飛んで、シャーロットが追いかけている。
それを窓から見ながら、エドワードが言った。
「レナードが休みに戻ってくる」
「そうですか」
「学園でどう過ごしているか聞いてみろ。来年はお前も行くのだから」
「はい」
「それと」エドワードが言った。「少し驚くかもしれんな」
「何にですか」
「お互いの変化だ」エドワードが窓の外を見た。「出発したときとは、だいぶ違うだろうから」
「レナードは勇者ではないが、それでもかなりの剣術は上達したようだ。手合わせしてみるといい」
庭でシャーロットが転んだ。
ソラが心配そうに飛んできた。
シャーロットが笑いながら立ち上がった。




