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いい匂いと青い鳥と魔法の話  作者: かわいかつひと


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平和な世の中

出発の朝、馬車の前に人が来ていた。

アメリアとクララだった。

それともう一人、小さい男の子がいた。

「ベネディクトです」男の子が言った。胸を張っていた。「第二王子です」

「レントです。カルヴィン辺境伯の次男です」

ベネディクトがレントを見た。それからソラを見て目を輝かせた。

「精霊だ」

『ソラといいます』ソラが言った。

「うわー喋った」ベネディクトが後ろに下がった。

それからまた前に出てきた。「なんて言ったの?」

「ソラと名前を名乗りました」

「ソラって言ったのはわかったよ。ベネディクトです。触ってもいいですか?」

「残念ですが、触れることができません。試されてはどうですか?」

「うん」ベネディクトが手を伸ばした。

そのまま手がすり抜けた。「本当だ」ベネディクトが言った。

嬉しそうだった。

それからレントの周りをぐるっと一周した。

「何かすごくいい匂いがする」

「生まれつきです」

「姉上たちが言ってた。本当だった」ベネディクトがまたレントを見た。


「また会えますか」

「学園に入ったら会えると思います」

「僕はまだ先だけど」ベネディクトが言った。「楽しみにしています」

クララがベネディクトの肩を引いた。「もう少し落ち着きなさい」

「だって精霊なんてはじめて見たから」

アメリアが小さく笑った。レントは初めてアメリアが笑うのを見た。

三人の仲が良いのはわかった。自然だった。

「アレクサンダー王子は」レントが聞いた。

アメリアとクララが顔を見合わせた。

少し間があった。

「兄上は次期王になる方ですから」アメリアが言った。

それだけだった。それ以上は言わなかった。

レントは頷いた。


「では学園で」アメリアが言った。鼻がわずかに動いた。

クララが前に出てきた。抱きつきはしなかった。

レントの手を両手で握った。

「また会いましょう」クララが言った。

「はい」

クララが手を離した。

馬車が動き出した。


王都が遠くなってから、エドワードが口を開いた。

「武官への評判は良かった。王女たちもだ。よくやった」

「ありがとうございます」

「ただ」エドワードが続けた。

「文官は次期王のアレクサンダーを支持している。レントのことは警戒しているようだ」

「なぜでしょうか、よくわかりません」

「大きすぎる力はそれだけで脅威なのだ。

不確定要素が文官には面白くないだろう。簡単に言えば怖いのだ」

レントは窓の外を見た。街道が続いていた。


「アレクサンダー王子に会いに行くべきでしたか?」

「いや、構わない。奴らが勝手にやっていることだ。

レントの好きにすればいい。レントには王女との婚約は頼みたい、しかしそれも強制はしないがな」

エドワードが言った。


「王子には権威が必要だ、そうでないと文官たちが影響力を行使できない」

エドワードが少し間を置いて話し始めた。

「アレクサンダーが暗愚かどうかはまだわからない。ただ、すでに政治の道具に使われている」

「それを自覚しているかどうかですか」

「そうだ。それに実際、お前のことはまだどうにでもなると思っているのであろう。

学園に入るまでは様子見だろう」

馬車が揺れた。

「ベネディクト王子は」レントが言った。

「第二王子は今のところ政治の外にいる。このままいけば分家だろう」

「今のところ、ということは」

「現王は暗愚ではない」エドワードが言った。

「王子であっても安泰というわけではない。廃嫡も暗殺も考えられる」

レントは黙っていた。

「それぐらい今は平和なのだ」エドワードが続けた。

「いつまで続くかはわからんがな」

街道の木が風で揺れた。


『レンさん』ソラが日本語で言った。

『うん』

『政治にはできるだけ関わらない方がいいですが、難しいかもしれません』

『そうだね』

「どちらにせよ、お前の立ち位置は自分で決めろ。よく考えておくんだな、自分がどうしたいかを」

馬車が揺れた。エドワードはそれ以上何も言わなかった。

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