無限の魔力
「陛下」エドワードが前に出た。
「魔法の披露は屋内では危険かと存じます。訓練場をお借りできますでしょうか」
王が頷いた。「よかろう」
訓練場は城の裏手にあった。
広い砂地だった。周囲に柵がある。
普段は兵士が使っているらしく、剣や槍が壁に並んでいた。
謁見の間にいた全員が移動してきた。
他にも兵士やら文官やらまで集まってきた。
王と王妃は少し高い場所に設けられた席に座っていた。
文官たちはその周囲、武官たちは少し前に出ていた。
皆が遠巻きにレントを見ていた。
期待しているのか、疑っているのか、よくわからない顔だった。
第一王女は首を動かしながら深呼吸している。
それから魔導士が三人呼ばれた。
地味な服を着た中年の男たちが少し離れた場所に立ってこちらを見ていた。
『ソラ、魔導士たちはどう見える』
『魔導士なのでレンさんの実力を測るのでしょう。
ですが、地位はそれほど高くないと思います。おそらく大した時間は使えないでしょうから』
『なるほど』
なぜか第一王女と第二王女はレントの近くにきた。
他の全員が遠巻きにしている中で、二人だけが近かった。
「あの、この辺りで見学しても大丈夫でしょうか」第二王女が言った。
レントが振り向いた。「はい、危険はないと思います」
第二王女が少し迷ったような顔で「何か、香水をおつけですか」
「いいえ」レントが言った。「何もつけていません」
「そうですか」第二王女が言った。「でも、とても良い香りがして」
「生まれつきです」
第二王女と第一王女が顔を見合わせてお互い頷いた。
「準備ができました」
武官の一人が言った。
訓練場の中央に、鎧を着た人形のようなものが置かれていた。木材で作った感じだ。
レントが前に出た。
「まず軽くやります」
空気を圧縮してイメージした。ボールをぶつけるイメージ。
的に向けて放った。少し鈍い音がして的が揺れた。
静寂が広がった。
武官たちの顔が変わった。
期待から落胆へ。
後ろの方で声が聞こえた。
武官らしい男の声だった。誰に言うわけでもなく、ただ漏れた声だった。
「これでは戦場では使えんな。牽制にもならん」
エドワードがレントを見た。「好きにやりなさい」
レントは的を見た。
少し腹が立っていた、勝手なことばかり言うから。
今度は弾丸のようなイメージ。圧縮したものを高回転させながら爆発的なスピードで放つ。
撃つポーズを演出しながら6発続けて。
的に穴が6つ開いた。
誰にも見えない攻撃。何が飛んでいるのかレントとソラ以外は誰にもわからなかった。
ただ的には穴が開いている。
ざわめきが起きた。
レントは続けた。
今度は炎をイメージした。炎を圧縮して、弾丸の形にした。
的に向けて放った。
炎の弾丸が的に当たった。的に火がついた。
次に大きな水の弾丸を作った。火に向けて放った。
火が消えた。
煙が上がった。
誰も何も言わなかった。
レントは周りを見渡して宣言した。「これで最後にします」
できる限り大きな弾丸をイメージした。
そこに炎を混ぜて、圧縮した。イメージできる限り。
的に当たった瞬間爆けるイメージを送った。
少しタイミングがズレたけど、的がこっぱみじんになった。
誰も気づかないだろう。
爆ぜた衝撃で空気を揺らし熱気が襲ってきた。
訓練場が完全に静まった。
さっき声を漏らした武官が何も言えないでいた。
しばらくして、魔導士の一人が恐る恐る前に出てきた。
「あの」と言った。声が少し震えていた。
「まだ余裕があるように見受けられますが、魔法はまだ使えるのですか」
「使えなくなることはないと思います」レントが言った。
魔導士が魔導士仲間を見た。三人とも同じ顔をしていた。
『レンさん』ソラが言った。
『これ以上はやめておきましょう』
『ごめん、少し腹が立った』
レントは前を向いた。
王がずっと黙っていた。表情が読めなかった。
しばらくして王が立ち上がった。
「そういえば」と王が言った。来年は学園に入学する年齢だったな」
それだけ言って、王は訓練場を後にした。
しばらく誰も動かなかった。
最初に動いたのは、さっき声を漏らした武官だった。
「あの」と言った。
レントが振り向いた。
男が少し迷ったような顔をした。「先ほどは失礼なことを言った。詫びたい」
「いえ」
「見えない攻撃というのは、どういう仕組みなのか」
「空気を圧縮して飛ばしています」
「空気を圧縮する?よくわからんな」
男が隣の武官を見た。
隣の武官が前に出てきた。
また別の武官が出てきた。気づくと四、五人に囲まれていた。
「炎と組み合わせることもできるのか」
「できます」
「水も使っていたな」
「はい」
「凄いな。魔法が使えて...剣は使えるか」
「一応、訓練はしています」
男たちが顔を見合わせた。「どこで習った」
「家で、兄と」
「カルヴィン辺境であれば、レナードだな」男が言った。
「それで剣はどの程度だ」
「兄には勝てません。なんとか凌げる程度です」
男たちがまた顔を見合わせた。何かを確認し合っているようだった。
「あのレナードの攻撃を凌ぐのか」
「なんかいい匂いだ」
「いや、4つ下なら加減するだろ」
「レナードの弟か...」
「すごくいい匂いだな」
何やら僕そっちのけで盛り上がってる。
「精霊はずっとそこにいるのか」男の一人がソラを見た。
「いつも一緒にいます」
「喋るのか」
「喋ります」
男がソラを見た。
ソラが少し間を置いた。
『愚か者どもひれ伏せ』と言った。
男たちがざわついた。
「王都に滞在している間、時間があればここに来い」男が言った。
「一緒に訓練しよう」
レントは少し驚いた。「はい、ぜひ」
男が頷いた。
「いつでも構わない」
「わかりました」
男たちが散っていった。
レントはその背中を見ていた。
武官たちの手のひらが返ったようだった。でも嬉しかった。
『レンさん』ソラが言った。
『うん』
『認めてくれた人達がいてよかったです』
『出だしはいいのかな』
屋敷に戻ると、エドワードから呼ばれた。
「予想通りではあるが」エドワードが言った。「王女の婚約者にという話が出た」
レントは黙っていた。
「まだ決定ではない。と言うより、どちらか決まっていない。
明日お茶会を開くらしい、それに参加せよ。第一王女と第二王女が同席する」
「王子は」
「公務で不在だ。他に誰が参加するかはわからん」
レントは少し考えた。「わかりました」
「あと、魔導士たちが話したいそうだ。直談判で嘆願された、この話はレントが好きに決めて良い」
そう言ってエドワードが部屋を出て行った。
レントはソラを見た。
『お茶会か』
『はい』
『ソラ、どうすればいい』
『とりあえず、礼儀正しくしていれば問題ないと思います』
『それだけ』
『あとは、なるべく鼻をひくひくさせないようにしてもらえると助かります』
『それは僕にはどうにもできない』
『冗談です、魔導士の方たちはどうしますか』
『会った方がいいと思う。どう伝えようか』
『私が手紙を持っていきましょう』
『じゃあ、手紙を書くから持って行って』
精霊様を使っていいのかな?まあ加護持ちだからいいかな。




