第99話:アメジストの凱旋
自分を捨てた場所で、最高級の称賛を浴びるアイリス。
彼女の指先が紡ぎ出した一針が、ついに王都の常識を塗り替えました。
エドワード様とセレーナが連行され、静まり返った広間に、今度は地鳴りのようなざわめきが戻ってきた。
それは蔑みでも嘲笑でもない。魔法という奇跡を知らぬ人々が、目の前の「真実の美」に圧倒され、抗いがたく跪いていく音だった。
「アイリス様……! 恐縮ながら、その袖口の刺繍を近くで拝見させていただけませんか」
「あの日、貴女を信じられなかった不調法をお許しください。……どうか、私のドレスにも、その一針を……!」
かつて私を無視し、汚物を避けるように道を空けた貴族たちが、今は我先にと私の周りに列をなしている。
魔法の光を一切借りず、北方の厳しい冬とリュカ様の愛によって磨き上げられたアメジストのドレス。その銀糸の明滅は、王都の貴族たちが積み上げてきた虚飾の歴史を、一瞬で色褪せさせるほどの説得力を持っていた。
(……凱旋。これが、私の戦いの結末)
私は、リュカ様の逞しい腕に手を添えたまま、優雅に、けれど決して媚びることなく微笑みを返した。
一針ごとに込めた悔しさ。
一針ごとに刻んだリュカ様への恋。
それらが今、王都中の審美眼を平伏させている。私がかつていた「公爵令嬢」という地位など、この手が生み出した美しさに比べれば、なんとちっぽけな記号だったのだろう。
「……満足か、アイリス」
リュカ様が低く、独占欲を孕んだ熱い声を耳元で響かせた。
彼のアイスブルーの瞳は、私に群がる貴族たちを射殺さんばかりの冷たさを湛えている。包帯の巻かれた左手が、私の腰をより一層強く抱き寄せた。
「はい、リュカ様。……ですが、この方々の称賛は、私には少し眩しすぎますわ。私の技術の価値を最初に認めてくださったのは、世界で貴方お一人だけですもの」
私が囁くと、リュカ様は呻くような声を漏らし、周囲の視線など一顧だにせず、私の指先に深い口づけを落とした。
王都のすべてを魅了し、ひれ伏させたアメジスト。
泥の中から這い上がった一人の針子の物語は、今、王都の歴史に「凱旋」という名の、決して消えない色彩を刻み込んだ。
第99話をお読みいただきありがとうございます。
かつての敵が列をなして縋ってくる……これぞ「ざまぁ」の真髄ですね。
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次話、称賛の嵐に嫉妬したリュカ様が、アイリスを連れ出します。第100話「独占欲の境界線」へ。




