第98話:捨てられた王子の末路
「見捨てないでくれ」という、恥知らずな王子の叫び。
アイリスは、自らの言葉で過去の呪縛を断ち切り、自分を救ってくれたリュカとの未来を選びます。
王宮の回廊に、衛兵に連行されるエドワード様の重い足音が響いていた。
立太子を白紙にされ、北方の開拓地への謹慎を命じられた男の背中には、かつての第一王子としての威光など微塵も残っていない。
彼は私の姿を見つけると、衛兵の手を振りほどくようにして駆け寄ろうとした。
「アイリス! 頼む、私を見捨てないでくれ! あんな北方の辺境へ一人で行けというのか!? 君が……君が私の隣にいれば、きっと父上も許してくださるはずだ。君は私の妃になるはずの女だろう!」
その言葉を聞いた瞬間、隣に立つリュカ様の気配が、凍てつくような殺意に変わった。
リュカ様は一歩前に出ると、腰の長剣を抜くことさえせず、ただそのアイスブルーの瞳だけで王子を物理的に圧し潰さんばかりに睨みつけた。
「……身の程をわきまえろ、無能。この女性をあの日雨の中に捨てたのは貴様だ。その時点で、貴様という存在は彼女の人生から完全に消滅した」
「リュカ……! 貴様、私を誰だと……!」
「ただの罪人だ。……これ以上、その汚れた口で彼女の名を呼んでみろ。王室の温情など無視して、今ここでその舌を引き抜いてやる」
リュカ様の包帯が巻かれた左手が、私の肩を砕かんばかりの力で抱き寄せる。
魔法のないこの世界で、男の独占欲は言葉よりも重い威圧となってエドワード様を襲った。王子はあまりの気迫に腰を抜かし、崩れ落ちたまま、言葉にならない呻きを漏らした。
私は、足元に這いつくばるかつての婚約者を、静かに見下ろした。
不思議なほど、怒りさえ湧いてこない。あのアメジストのドレスを泥で汚されたあの日、私の中の「エドワード様」は、確かに死に絶えたのだ。
「……さようなら、エドワード殿下。貴方の隣にいた私は、もうどこにもおりません。今の私は、私を見つけ、愛してくださったこの方の傍にしか、居場所はないのですわ」
私が冷徹に告げると、エドワード様は絶望に顔を歪め、そのまま衛兵たちに引きずられて暗い回廊の奥へと消えていった。
かつての愛も、名前も、すべてを奪われた王子の末路。
私はリュカ様の逞しい胸板に顔を埋め、彼から伝わる激しい独占の熱に、ただ身を委ねていた。
第98話をお読みいただきありがとうございます。
エドワード王子の自業自得な末路……「舌を引き抜く」というリュカ様の脅しが本気すぎてしびれます。
魔法なき世界での、最も残酷で清々しい決別でした。
「アイリスの冷ややかな視線が最高!」「リュカ様のガードが最後まで鉄壁」と思ってくださった方は、
ぜひ【★★★★★】評価やブックマークで応援をよろしくお願いします!
次話、アイリスの美学が王都を平伏させる、第99話「アメジストの凱旋」へ。




