第94話:暴かれる桃色の嘘
バートが命懸けで守った「真実の欠片」。
アイリスは自らの言葉で、セレーナが桃色のドレスの下に隠していた醜悪な嘘を、白日の下に晒します。
静まり返った大広間に、リュカ様が掲げた一通の書状が、燭台の光を浴びて白く浮かび上がった。
「……それが、何だと言うの! そんな汚れた紙きれ、私の言葉を覆す証拠になどなりはしないわ!」
セレーナが金切り声を上げるが、その声は恐怖に震えている。魔法のないこの世界において、一度定着した悪評を覆すのは至難の業だ。だが、それゆえに「揺るぎない物証」は、時に王の言葉よりも重い真実となる。
「セレーナ、貴女はあの日、私の筆跡を真似た『偽りの艶書』をエドワード様に差し出しましたわね。……ですが、貴女は致命的な間違いを犯しましたわ」
私はリュカ様の腕から離れ、一歩、セレーナの前へと進み出た。アメジストのドレスが、私の意志に呼応するように鋭く明滅する。
「貴女が代筆屋に練習させた、その練習台となった古い紙。……そこに残された貴女自身の指輪の刻印と、インクの染み。そして何より、追放されたはずの忠実な従者、バートが大切に保管していた、貴女が筆跡を真似るために書き損じた数々の『下書き』。……これらがすべて、貴女の嘘を証明しています」
リュカ様の手から放たれた数片の紙が、雪のようにセレーナの足元へ舞い落ちた。
そこに記されていたのは、アイリスの筆跡を不器用に模倣した、セレーナの執念の残骸。
「あ……、あぁ……っ!」
セレーナが膝をつく。周囲の貴族たちから、驚愕と軽蔑の混じった囁きが広がる。
「まさか、すべて捏造だったのか?」「あんなに親友のふりをしておきながら……」
「さらに、エドワード殿下。貴女がアイリスから『奪った』と称して殿下に贈ったあの刺繍の数々。……バートの証言によれば、それらもすべて、アイリスが密かに殿下のために夜なべして刺したものだったそうですね」
リュカ様の冷徹な追及に、エドワード様の顔から完全に血の気が引いた。自分が大切にしていた「セレーナからの愛の証」が、実は自分が泥の中に投げ捨てたアイリスの手によるものだった。その残酷な真実が、王子の魂を粉々に打ち砕く。
「……セレーナ。桃色は、春の訪れを祝う愛の色。……ですが貴女が纏うその桃色は、嘘と醜い嫉妬で染まった、ただの毒の色に過ぎませんわ」
私が最後の一言を放った瞬間、広間を支配していた「桃色の虚飾」は音を立てて崩れ去った。
魔法なき世界の断罪。それは、一針の真実が、積み上げられたすべての嘘を貫いた瞬間だった。
第94話をお読みいただきありがとうございます。
ついに暴かれたセレーナの悪行……代筆屋の下書きまで残っていたとは、詰めが甘かったですね。
「セレーナの絶望顔が目に浮かぶ!」「バートの執念が実を結んでよかった」と思ってくださった方は、
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次話、追い詰められたセレーナが仕掛ける「物理的な罠」の結末。第95話「ドレスに宿る真実」へ。




