第93話:セレーナの毒牙、再発
追い詰められたセレーナの、恥知らずな「不貞」の再糾弾。
しかし、彼女が叫ぶたびに、自らの破滅への秒読みが加速していきます。
崩れ落ちたエドワード様の背後で、セレーナが喉の奥で引きつったような笑いを漏らした。
彼女が纏う桃色のドレスは、アイリスのアメジストの輝きに照らされ、まるですべての色彩を奪われたかのように色褪せて見える。魔法なきこの地において、それは「敗北」以外の何物でもなかった。
「……ああ、おかしいわ。みんな、この女の『毒』に当てられてしまったのね」
セレーナは狂気を含んだ瞳を剥き出しにし、震える指先で広間を指し示した。
「騙されないで! 皆様、忘れたのですか? このアイリス・ランチェスターが、不貞を働き、我が国の宝を盗もうとした大罪人であることを! そのドレスだって、辺境の男に色香を振りまき、我が国の機密と引き換えに用意させた汚れた布ですわ!」
広間に再び、不穏なざわめきが広がる。
魔法の力で真実を証明できないこの世界では、一度定着した「噂」は、時に事実よりも強く人を縛る。セレーナは、アイリスの圧倒的な美貌という「真実」を、再び「不貞」という毒で塗りつぶそうと試みたのだ。
「リュカ辺境伯! 貴方も騙されているのです。この女は、貴方を踏み台にして王都へ返り咲くことしか考えていない。今すぐその汚らわしい手を放しなさい!」
セレーナの絶叫が、高い天井に反響する。
私の身体が、一瞬だけあの日雨の中で感じた冷たさに強張る。だが、その肩を抱きしめるリュカ様の掌は、驚くほど静かで、そして熱かった。
「……毒蛇の最後の手が、それか」
リュカ様のアイスブルーの瞳に宿るのは、怒りですらない。ただ、ゴミを見るような、冷徹なまでの蔑み。
彼は私の腰を引き寄せ、逃れられぬように強く抱きしめると、広間全体を震わせるような低い声で告げた。
「アイリス、案ずるな。……奴が放ったのは、自分自身の首を絞めるための縄だ」
リュカ様は懐から、一通の封書――市場でバートから受け取った、あの「真実の欠片」を取り出した。
セレーナ、貴女の「毒牙」は、もう私を傷つけることはできない。
その牙が自分自身に突き刺さる瞬間を、特等席で見せてあげましょう。
第93話をお読みいただきありがとうございます。
セレーナのなりふり構わぬ糾弾……まさに毒蛇の最期という感じです。
「セレーナ、往生際が悪すぎる!」「リュカ様が持っている証拠、早く見せて!」と思ってくださった方は、
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次話、ついにすべての嘘が暴かれる、第94話「暴かれる桃色の嘘」へ。




