第89話:王宮の階段にて
白大理石の階段を上る、アメジストの閃光。
アイリスはリュカの腕に抱かれ、過去の未練をすべて踏み越えて、高みへと至ります。
大広間の奥、国王陛下と王族たちが待つ高台へと続く、白大理石の大階段。
そこは魔法の光さえ及ばない、純然たる権威と血統が支配する「審判の場」だった。
「アイリス、恐れるな。この階段は、お前が過去を切り捨て、新しい王として君臨するための道だ」
リュカ様が低く、心地よい声で私の耳を打つ。
彼は包帯の巻かれた左手で私の腰をしっかりと抱き寄せ、自らの熱を分け与えるように密着させた。漆黒の軍礼装に施された猛禽の刺繍が、一歩ごとに命を宿したように揺れる。
私が一歩、階段に足をかける。
その瞬間、アメジストのドレスに仕込んだ水晶片と銀糸が、天井の無数の燭台を捉え、大理石の床に紫の火花を散らした。
「……あ。……見ろ、あの輝きを」
「階段を上るたびに、色が……色が変わっていく」
階下で見守る貴族たちから、吐息のような感嘆が漏れる。
魔法が使えないこの地において、光の屈折を計算し尽くしたアイリスの「反撃の鎧」は、人々の目に奇跡として焼き付いていた。
階段の途中で立ち尽くしていたエドワード様が、信じられないものを見るかのように私を凝視している。彼の隣で、セレーナはドレスの裾を強く握りしめ、顔を屈辱に歪めていた。
「アイリス、……待ってくれ、君……っ」
エドワード様がたまらず声をかけるが、私は一瞬たりとも足を止めなかった。
かつての私なら、この階段の途中で彼に呼ばれれば、不安げに振り返っていただろう。けれど今、私の視線の先には、最上段で冷徹に、そして誇らしげに私を導くリュカ様の瞳しかない。
「……お前の隣に立つのは、俺だ。あんな男に、視線の一欠片もくれてやるな」
リュカ様が独占欲を剥き出しにして、私の指先を自らの胸元へと引き寄せる。
階段を上り詰めるたび、背後にある王都の虚飾が遠ざかり、代わりに北方の主と二人だけの、確かな真実が近づいてくる。
私たちはついに最上段に立ち、騒然とする大広間を、冷酷なまでに気高く見下ろした。
王宮の階段。それは、アイリスが「捨てられた令嬢」から「真の女王」へと脱皮した、聖なる境界線となった。
第89話をお読みいただきありがとうございます。
階段を上るアイリスの描写、まさに「逆転」の象徴ですね。
魔法なき世界だからこその、ドレスと光の演出が王都の貴族たちを圧倒しました。
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次話、いよいよ第4章の締めくくり。大広間の扉が開き、真実の幕が上がります。




