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無色の令嬢と氷の辺境伯 〜魔法のない世界で、貴方の瞳に映る私だけが本物でした〜  作者: 寝不足魔王


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85/110

第85話:反撃のシナリオ

罠を「輝き」に変える、逆転の秘策。

アイリスの技術とリュカの計略が重なり、セレーナへの無慈悲なシナリオが完成します。


 王宮の灯火が見える位置まで、馬車は迫っていた。

 リュカ様は、握りつぶした報告書を窓の外へ放り捨てると、私を強く引き寄せ、耳元でその低く甘い声を響かせた。


「奴が買収したのは三人の給仕だ。入場と同時、二階の回廊からワインをぶちまける手はずになっている。……魔法のないこの国で、一度染まった絹は死を意味すると、あの毒婦は信じているようだが」


 リュカ様が不敵な笑みを浮かべる。彼の手には、私が工房で見たあの銀細工が握られていた。


「アイリス、お前がドレスに仕込んだ『水晶片』と『空隙刺繍』。あれは光を反射するだけではない。さらをも弾くように、お前は北方の蜜蝋を糸に染み込ませたはずだ」


「……ええ。雪深い地でドレスを守るための、古くからの針子の知恵ですわ」


 私は、自分が無意識に施していた「生活の知恵」が、最強の防護服となっていたことに気づく。北方の厳しい冬に耐えるため、撥水加工を施した糸で刺した刺繍。それは、王都の甘い毒など寄せ付けない「盾」そのもの。


「シナリオを書き換えるぞ。奴らが液体を放った瞬間、俺がこの銀の飾緒エギュレットを投擲し、回廊の燭台を叩き落とす。……闇の中、お前のドレスだけが水晶の反射で銀色に輝き、浴びせられたワインはただの霧となって、お前の周囲に幻想的なとばりを作るだろう」


 リュカ様の発想は、あまりにも大胆で、そして残酷なまでに美しかった。

 セレーナが「汚辱」として用意したものを、彼は「演出」として利用しようとしている。


「お前はただ、何が起きても歩みを止めるな。俺の腕に縋り、最高に傲慢な笑みを浮かべていろ。……セレーナが絶望の中で、自分の放った矢が自分に刺さる音を聞くために」


 魔法なき世界の、知略と執着。

 私は、リュカ様の包帯の巻かれた左手に自らの手を重ね、深く頷いた。

 

 私たちは今、ただの復讐者ではない。

 王宮という舞台を支配する、真の「主役」として、その幕を開けようとしていた。


第85話をお読みいただきありがとうございます。

北方の針子の知恵「蜜蝋の撥水糸」……魔法がなくても、工夫次第で無敵になれる展開、熱いですね!

「リュカ様の演出能力、高すぎ!」「セレーナの自滅が今から楽しみ」と思ってくださった方は、

ぜひ【★★★★★】評価やブックマークで応援をよろしくお願いします!

次話、出発の朝。リュカがアイリスに贈る「独占の証」。第86話「心を繋ぐリボン」へ。


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