第79話:揺るがない信頼
セレーナの毒を焼き尽くす、リュカの圧倒的な言葉。
「俺を信じろ」――その一言が、アイリスを無敵の淑女へと変えていきます。
握りつぶされた赤い封筒が、暖炉の火に投げ込まれ、黒い灰となって消えていく。
セレーナが放った「リュカを破滅させる」という毒。その言葉の重みに、私はなおも自責の念で指先を震わせていた。
「リュカ様……。あの方は本気ですわ。私のために、貴方の積み上げてきた名誉が泥を塗られるなんて、そんなこと……」
「アイリス」
遮られた声には、怒りよりも深い、重厚な愛が宿っていた。
リュカ様は私の両手をとり、その掌を自らの頬に当てた。魔法のないこの世界で、彼が私に与えてくれるのは、いつだって揺るぎない肉体の熱だ。
「俺の名誉は、王宮の書面や奴らの噂話の中にではない。……お前が紡いだこの一針に、俺の隣で咲こうとするお前の魂の中にこそある」
彼のアイスブルーの瞳が、至近距離で私を射抜く。
「俺を侮るな。お前一人の誇りを守れずに、どうして北方の全土を守れる。奴らが俺を破滅させようとするなら、その腕をすべて叩き折ってやるまでだ。……だから、お前も俺を信じろ」
その言葉は、どんな魔法の呪文よりも力強く、私の心に溜まっていた澱みを一瞬で消し去った。
リュカ様は私の腰を引き寄せ、逃れようのない力で抱きしめた。包帯の巻かれた左手が私の背中を強く圧し、そこから伝わる痛覚が、彼との絆をより鮮烈に刻み込む。
「お前は、今夜のドレスにすべてを込めたのだろう? ならば、その技術を、その美しさを俺に預けろ。……俺がそれを盾にし、お前の進むべき道をすべて切り拓いてやる」
独占欲に満ちた、けれど聖域のような安らぎ。
私は彼に身を預け、震えが止まった指先で彼の背中を強く抱きしめ返した。
「……はい、リュカ様。私は、貴方という盾を信じ、貴方の誇りとして、最高の自分をあの方たちの前に晒してまいりますわ」
魔法なき世界の冷たい風が、窓を叩く音ももう怖くはない。
揺るがない信頼。
私たちは夜が明けるまで、一言も交わさず、ただ一つの魂となったような充足感の中で、運命の朝を待った。
第71話をお読みいただきありがとうございます。
「俺の名誉はお前の魂の中にある」……リュカ様の愛が深すぎて、言葉の重みが違いますね。
魔法がないからこそ、こうして肌と肌、言葉と心で信頼を積み重ねる二人に胸が熱くなります。
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次話、ついに王宮大夜会の招待状が「正式」に届きます。




