第72話:暴かれた真実の欠片
バートが語った、セレーナのあまりにも稚拙で残酷な嘘。
すべてを失わせた「証拠」の正体を知り、アイリスとリュカの決意はさらに強固なものへ。
染物屋の裏口、人目に付かない暗がりのなか、バートは震える手で懐から一枚の汚れた紙片を取り出した。
「アイリス様……あの日、貴女様が不貞を働いたという証拠にされた『男からの艶書』。……あれは、セレーナ様が代筆屋に書かせた偽物です。私は見てしまったのです。彼女が貴女様の筆跡を真似て、何度も、何度も練習していたところを」
心臓が、嫌な音を立てて脈打った。
魔法の呪いなどではない。ただの紙とインク、そして醜い嫉妬から生まれた、あまりに単純で幼稚な悪意。そんなもののために、私はすべてを失ったのだ。
「さらに、セレーナ様はエドワード殿下へ贈るための贈り物も、アイリス様が用意していたものを取り替え、ご自身の功績に……。殿下は、貴女様が心を込めて刺した品を、一度も目にすることなく捨ててしまわれたのです」
「……あ、……ぁ……」
膝から崩れ落ちそうになった私の身体を、リュカ様の強靭な腕が支えた。
彼のアイスブルーの瞳は、これまでにないほど激しい怒りと、私を傷つけた世界への殺意に燃えている。
「……くだらん。あまりに下劣な茶番だ」
リュカ様はバートからその証拠の紙片を受け取ると、私の肩を抱き寄せ、耳元で熱く囁いた。
「アイリス。あいつらが積み上げた虚像は、お前が今夜纏う一針の真実だけで崩壊する。……この証拠も、俺がお前のための剣として、最適な場所で突きつけてやる」
「リュカ様……」
「バートと言ったか。お前の勇気は、俺がしかと受け取った。……この者には、ヴォルテール家の名において、これからの生活を保証する。お前はもう、誰も恐れる必要はない」
リュカ様の言葉に、バートは涙を流して何度も頭を下げた。
魔法がないからこそ、人の悪意は時に致命傷となる。けれど、同じように、人の良心と愛もまた、この過酷な現実を塗り替える力を持つのだ。
手にした真実の欠片。
セレーナ、貴女が隠し通したつもりでいた嘘のすべてを、私は今夜の夜会で、最高に気高い形で暴いて差し上げますわ。
第72話をお読みいただきありがとうございます。
代筆屋を使った証拠捏造……魔法がない世界ならではの、リアルで陰湿な裏切りが判明しましたね。
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次話、市場から戻ったアイリスを、リュカの激しい心配と嫉妬が襲います。




