第67話:封じられた登城
夜会当日、王宮の門を閉ざされるという最悪の妨害。
セレーナの執念が、アイリスから最後の「舞台」を奪おうと動き出します。
夜会当日。別邸の門前に、王宮の儀典官を名乗る一団が、冷酷な宣告を携えて現れた。
「――よって、アイリス・ランチェスター嬢の今夜の登城は、王家の秩序を乱す恐れがあるとして禁じられた。これはエドワード殿下、および王妃殿下の連名による決定である」
差し出された書状を読み上げられた瞬間、私は立っているのがやっとだった。
セレーナが、エドワード様の未練と王妃様の保守的な心を巧みに操ったのだ。「不貞の噂がある者を、神聖な王宮の広間に立ち入れさせてはならない」という正論を盾にして。
魔法という奇跡がないこの地において、王宮の門を閉ざされることは、社会的な存在権を完全に否定されることと同義だ。
「……卑怯な。私が現れることを、それほどまでに恐れているのですか」
震える私の肩を、背後から現れたリュカ様の分厚い胸板が支えた。
彼のアイスブルーの瞳は、これまでにないほど深く、暗い殺気を孕んでいる。包帯の巻かれた左手が、私の腰を砕けんばかりの力で引き寄せ、その独占欲を誇示するように抱きとめた。
「アイリス、案ずるな。……奴らは、自分が誰に門を閉ざしたのか、まだ理解していないようだな」
リュカ様は儀典官から書状を奪い取ると、一瞥もせずにその場で二つに引き裂いた。
「貴公! 王家の決定を……!」
「王家の決定? 俺にとっては、一人の狂った女の世迷い言にしか聞こえん。……戻って主に伝えろ。俺がエスコートする女性を拒むということは、北方ヴォルテール家との国交を断絶する覚悟があるということか、とな」
リュカ様の放つ、戦場を潜り抜けた者特有の重圧に、儀典官たちは言葉を失い、後ずさりした。
だが、事態は深刻だった。物理的に門が閉じられれば、いかなる美しさを纏っていても、それを披露する場所すら奪われる。
私は、自ら仕立てたアメジストのドレスをもう一度見つめた。
セレーナが築いた壁。魔法なき世界の権力という名の鎖。
私たちは、その巨大な障壁を前に、一歩も引けぬ瀬戸際へと追い詰められていた。
第67話をお読みいただきありがとうございます。
セレーナのやり方、本当にどこまでも卑劣ですね……。
「リュカ様、ここからどう逆転するの!?」「アイリスのドレスを早く見せたい」と思ってくださった方は、
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次話、北方領主としてのリュカ様が、王室を震え上がらせる「最後の手札」を切ります。




