第61話:貴族社会の包囲網
セレーナが敷いた、アイリスを社会的に殺すための「包囲網」。
しかし、逆境こそがアイリスの針をより鋭く、研ぎ澄ませていきます。
愛し合った余韻を打ち消すように、翌朝の別邸には冷たい知らせが舞い込んだ。
昨夜の舞踏会でのアイリスの再登場は、王都中のサロンで最悪の形に歪められ、語られていた。
「……不貞を働いた女が、辺境の武力を盾に舞い戻った?」
「エドワード様を誘惑し、再び王家を混乱に陥れようとしている毒婦だという噂ですわ」
別邸の外から聞こえてくるような、実体のない中傷。
セレーナが金と権力を使って、社交界の夫人たちに「アイリスを無視せよ」という包囲網を敷かせたのだ。魔法なきこの地において、社交界での「沈黙」は物理的な死よりも残酷な刑罰だった。
「アイリス、窓から離れろ」
リュカ様が背後から現れ、私を窓辺から引き離す。
彼のアイスブルーの瞳は、今朝も鋭く、外界への殺意を隠そうともしない。
「……セレーナの差し金ですわね。彼女、私がドレスで彼女を圧倒したのが、よほど屈辱だったのでしょう」
「くだらん。奴らが何を囁こうと、お前の価値は俺が知っている。……だが、王都の奴らがお前に石を投げようとするなら、俺はこの街ごと焼き払う準備がある」
リュカ様は私の肩を強く抱きしめ、独占欲を滲ませて囁いた。
けれど、私は静かに首を振った。
守られるだけの私なら、あの日雨の中で消えていればよかった。私は、この手にある「針」と「美学」で、リュカ様の隣に立つ資格を証明しなければならないのだ。
「いいえ、リュカ様。沈黙には、もっと美しい音で応えればよいのです。……私を無視しようとする方々が、どうしても無視できないものを、私は作ってみせますわ」
私が凛として言い放つと、リュカ様は一瞬だけ驚いたように目を細め、やがて満足げに私の額に口づけた。
「……お前のそういう強さが、たまらなく愛おしい。行け、アイリス。お前が戦う間、俺はすべての外敵を斬り伏せる『盾』でいよう」
包囲網が狭まる中、私は再び銀の針を手にした。
孤立という名の嵐の中で、私にしか紡げない反撃の意匠が、今、頭の中で形を成し始めていた。
第61話をお読みいただきありがとうございます。
王都の「沈黙のいじめ」が始まりましたが、アイリスは一歩も引きません。
「アイリスの反撃が楽しみ!」「リュカ様の『街ごと焼き払う』発言が重い……愛ですね」と思ってくださった方は、
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次話、アイリスの技術を認める「意外な味方」が密かに現れます。




