第60話:嫉妬という名の愛撫
エドワードへの嫉妬に狂うリュカ。
その荒ぶる情熱を、アイリスはすべて自らの身で受け止め、絆をさらに深く刻みます。
別邸の寝室。厚いカーテンが夜の闇をさらに深く閉じ込め、室内には暖炉の薪が爆ぜる音だけが響いている。
リュカ様は私の肩に手を置いたまま、動こうとしなかった。その指先から伝わる熱量は、先ほどまでの怒りとは違う、もっと根源的で、飢えた獣のような色を帯びている。
「……アイリス。あいつがお前に触れた場所が、俺の頭の中から消えない」
リュカ様のアイスブルーの瞳が、暗闇の中で鋭く光る。
彼は私の手首を引き寄せ、エドワード様が強引に掴んだあざをなぞるように、自らの唇を押し当てた。
魔法のないこの地において、上書きできるのは「肌の記憶」だけ。
「ここも、ここも……すべて俺のものだ。誰にも一瞬たりとも、お前の輪郭を思い出させたくない」
彼は私のドレスの襟元に指をかけ、その精緻な刺繍に触れながら、私を逃げ場のない寝台へと押し倒した。
重なる、二人の重い吐息。
リュカ様の手が、私の頬を、髪を、そして指先を、所有権を刻み込むような強さで愛撫する。
「リュカ様……。私は、貴方の腕の中にしかおりません。……どこにも、行けませんわ」
私が熱に浮かされたように囁くと、彼は私の言葉を飲み込むように激しく唇を重ねた。
それは、慈愛というよりも、剥き出しの独占欲。
かつての婚約者が向けた卑屈な執着を、その圧倒的な質量と熱情ですべて焼き尽くそうとするかのような、狂おしいまでの抱擁。
魔法が使えないからこそ、彼は自らの肉体ですべてを支配し、私の魂を一針ごとに縫い止める。
私は彼に背中に爪を立て、その激しい嫉妬を、愛おしさとともに受け入れた。
夜が明けるまで、リュカ様の唇と指先は、私の肌のいたる所に「俺のものだ」という見えない誓印を刻み続けた。
嫉妬という名の愛撫。
それは、絶望を知った私が手に入れた、最も重く、最も甘美な「真実の愛」の証だった。
第60話をお読みいただきありがとうございます。
リュカ様の独占欲が「上書き」という形で爆発しました。
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次話、そんな二人の愛を嘲笑うように、王都の「包囲網」が動き出します。




