第57話:奪われたはずの輝き
「パクリ」だと罵るセレーナ。
しかし、本物の気品を前に、彼女の虚飾は剥がれ落ちていきます。
アイリスが自らの手で、奪われたはずの輝きを完全に取り戻す回です。
エドワード様が逃げるように去った後、静寂を切り裂くように高い笑い声が響いた。
人混みの中から、毒々しい桃色のドレスを翻し、セレーナが歩み寄ってくる。
「……見事な演技ですわ、アイリス様。辺境の野蛮な男をたぶらかして、そんな立派な装いを用意させるなんて」
セレーナは扇で口元を隠しながら、私のドレスを値踏みするように睨みつけた。彼女の瞳には、かつての親友としての慈しみなど欠片もなく、ただ濁った嫉妬だけが渦巻いている。
「でも、お可哀想に。そのドレスの意匠……私が今着ている、王都で最も流行っている私のデザインの焼き直しではありませんこと? 結局、貴女は私を追いかけることしかできないのね」
周囲の令嬢たちが、クスクスと忍び笑いを漏らす。
魔法のないこの社交界において、「流行の模倣」は最大の屈辱とされる。セレーナは、私のドレスが自分のパクリであると印象づけることで、私の尊厳を再び泥に沈めようとしていた。
私は、隣で今にも剣を抜きそうなリュカ様の手をそっと制し、一歩前へ出た。
「……セレーナ。貴女は、私が贈ったあのアプリコット色のドレスを『お下がり』と呼びましたわね。今纏っているそのドレスも、私の古い意匠を切り貼りしただけの継ぎ接ぎ(つぎはぎ)に過ぎない。……それが、貴女の言う『輝き』なのですか?」
「なんですって……!?」
「ご覧なさい。このアメジストのベルベットを。この銀糸の輝きを」
私は優雅に背筋を伸ばし、大広間のシャンデリアの光を全身に浴びた。
魔法の光など必要ない。一針一針に誇りを縫い付け、自らの魂で染め上げた布地は、セレーナの安っぽい絹地とは比較にならないほどの重厚な光を放つ。
「貴女が奪ったのは、アイリス・ランチェスターという『名前』だけ。……私が自分の指先で紡ぎ出したこの『輝き』だけは、誰にも、貴女にも、決して奪えはしない」
圧倒的な美学の差。
周囲の嘲笑は消え、代わりに溜息と、セレーナの醜いドレスへの冷ややかな視線が広間に満ちた。セレーナは屈辱に顔を歪ませ、握りしめた扇をミシリと鳴らす。
「アイリス……! 貴女なんて、貴女なんて……っ!」
「……見苦しいぞ、毒婦」
リュカ様が冷酷な声で割って入り、私をその逞しい腕の中に引き寄せた。
彼はセレーナを一瞥もせず、まるで汚れ物を見るような瞳で床を掃いた。
「お前の安物の香水が、彼女のドレスに染み付く。……二度と、その醜い姿を俺たちの前に晒すな」
かつて私を支配していたはずの桃色の影が、今はただの、色褪せた残像に成り下がっていた。
第57話をお読みいただきありがとうございます。
ドレスの格の違いでセレーナを圧倒するアイリス、まさに「美学の勝利」ですね。
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次話、逃げ場を失ったエドワードが強硬手段に出る、第58話「密室の糾弾」へ。




