第55話:秘密の舞踏会(後)
エドワードとの運命の再会。
しかし、アイリスの隣には、王家すら恐れぬ最強の守護者がいました。
人波が割れ、その奥から現れた人影に、会場の熱気が一瞬で凍りついた。
「……アイリス、なのか?」
掠れた声の主は、エドワード様だった。
王家の象徴である金色の飾緒を揺らし、彼は信じられないものを見るかのように私を凝視している。その隣には、勝ち誇った笑みを顔に張り付かせたまま硬直しているセレーナの姿もあった。
魔法のないこの世界で、女性の価値を証明するのは魔力ではなく、その身から溢れ出す「気品」と「装い」だ。
エドワード様の瞳に映っているのは、泥にまみれて泣き喚いていた過去の私ではない。
リュカ様に愛され、自らの手で一針一針誇りを縫い止めた、アメジストのように硬く、気高い一人の女。
「お久しぶりでございます、エドワード殿下。……それに、セレーナも。相変わらず、私の『お下がり』がよくお似合いですわね」
私が優雅に、かつ氷のように冷ややかに微笑むと、セレーナの顔から血の気が引いていくのが分かった。彼女が今纏っているドレスの意匠は、かつて私が王都で流行らせたものの焼き直し。本物の輝きを前にすれば、それは滑稽な模造品に過ぎない。
「アイリス、君……。そんなに美しく……。私が間違っていた、やはり君こそが……」
エドワード様が、あの日私を突き放した時とは別人のような、情けないほど潤んだ瞳で一歩歩み寄ろうとした。
その刹那。
私の腰に回されていたリュカ様の腕に、ぐいと力が込められた。
リュカ様はエドワード様の進路を塞ぐように半歩前に出ると、アイスブルーの瞳で王子を射殺さんばかりに睨みつけた。
「……気安く触れようとするな。この女性は、我がヴォルテール家が全霊を賭して守護する宝だ。……お前のような、価値を理解できぬ男が口にしていい名ではない」
リュカ様の放つ、戦場を潜り抜けた者特有の重圧。
エドワード様は、魔法も持たぬ一人の男の気迫に圧され、たじろいで後退した。
「リュ、リュカ辺境伯……。君は、王家に対して……!」
「王家が何だ。俺にとっては、この腕の中にいる彼女の微笑み一つの方が、王都の王座よりもよほど重い」
会場全体が、リュカ様の傲慢なまでの独占欲に息を呑む。
私はリュカ様の逞しい胸板にそっと寄り添い、エドワード様の絶望に満ちた視線を真っ向から受け止めた。
かつての恋心など、微塵も残っていない。
ただ、自分を信じてくれたこの男の隣にいることが、今の私のすべて。
復讐は、まだ始まったばかり。
私はリュカ様の大きな手に指を絡め、騒然とする舞踏会の中心を、気高く歩き出した。
第55話をお読みいただきありがとうございます。
エドワード王子の前で「お前のような男が口にしていい名ではない」と言い放つリュカ様、最高にスカッとしますね!
「ざまぁの幕開け!」「リュカ様の独占欲が限界突破してる」と思ってくださった方は、
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次話、アイリスへの未練を募らせるエドワードと、リュカ様の殺意が激突します。




