第52話:氷の瞳、炎の嫉妬
一通の手紙が暴いた、アイリスの過去。
リュカの「氷の瞳」の裏側に潜んでいた、狂気にも似た「炎の嫉妬」が牙を剥きます。
リュカ様の手の中で、くしゃくしゃになった古い手紙がカサリと音を立てる。
その乾いた音は、まるで私の平穏な日々が崩れ去る合図のようだった。
「リュカ様、聞いてください。それは……」
「黙れと言ったはずだ」
遮られた声は、地を這うほどに低く、冷たい。
彼のアイスブルーの瞳は、いつも以上に透き通って見えた。けれど、その奥底にはドロドロとした暗い熱――制御しきれない嫉妬の炎が渦巻いているのを、私は本能で察知した。
魔法が使えないこの地において、男の怒りはその体温と腕の強さで示される。
リュカ様は私の手首を掴み上げ、逃れられないように背後の壁へと押し込んだ。石壁の冷たさが背中に伝わるが、それ以上に、私を拘束する彼の掌が、火傷しそうなほどに熱い。
「この手紙を……あいつに渡すつもりだったのか。この美しい指先で、あいつのために針を動かし、あいつのために言葉を綴っていたのか」
「……それは、あの日雨の中に捨てられる前の私ですわ! 今の私を見てください、リュカ様!」
必死の訴えも、嫉妬に狂う彼の耳には届かないようだった。
リュカ様は私の首筋に顔を埋め、所有権を刻みつけるように深く、鋭く、その香りを吸い込んだ。
「お前の過去をすべて切り刻んでやりたい。お前がかつて誰かを愛したという記憶そのものを、この世から消し去ってしまいたい……」
独占欲。
それは、慈愛を遥かに超えた、傲慢で純粋な暴力だった。
エドワード様は、私という存在を「王妃」という型に嵌めようとした。けれどリュカ様は、私という存在そのものを、自らの魂の一部として飲み込もうとしている。
「アイリス……。お前をこのまま、誰の目にも触れない地の底へ隠してしまえたら、どれほど楽だろうな」
掠れた声で囁きながら、彼は私の瞳をじっと見つめた。
氷のように冷たく、炎のように熱い視線。
私はその矛盾した情愛に、恐怖と、抗いようのない甘美な昂揚を同時に感じていた。
窓の外、王都の闇は深まり、セレーナの放った毒は、確実に二人の絆を歪め、加速させていく。
第52話をお読みいただきありがとうございます。
リュカ様の嫉妬、凄まじいですね……。「地の底へ隠したい」というセリフに彼の本音が漏れています。
「独占欲の塊のリュカ様、たまらない!」「アイリス、誤解を解けるの?」と思ってくださった方は、
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次話、涙ながらにリュカ様へ真実を訴えるアイリス。二人の感情が激突します。




