第42話:宿場町の視線
宿場町で露わになる、アイリスの圧倒的な気品。
しかし、彼女の美しさが注目を集めるほど、北方の主の独占欲は限界を超えていきます。
王都へ続く街道沿いにある宿場町は、各国の商隊や旅人で賑わっていた。
北方の峻烈な空気とは異なる、どこか浮ついた、それでいて活気のある喧騒。私はリュカ様のエスコートを受け、馬車から降り立った。
その瞬間、周囲の空気が一変したのを肌で感じた。
「……見ろ、あの女性を」
「なんと高貴なアメジストの色だ。あんなドレス、王都の流行の先を行っているのではないか?」
ざわめきが波紋のように広がっていく。
私が纏っているのは、北方の離宮で仕立てたアメジスト・パープルのベルベットドレス。魔法など介さずとも、その圧倒的な生地の重厚感と、私が一針ごとに魂を込めた銀糸の刺繍が、見る者の目を釘付けにしていた。
かつて王都を追われた際、私に向けられたのは蔑みと嘲笑だけだった。
けれど今、宿場を行き交う人々の瞳にあるのは、純然たる驚嘆と、言葉を失うほどの感嘆だ。
「……チッ」
隣を歩くリュカ様から、低く鋭い舌打ちが漏れた。
彼が私の腰に回した手の力が増し、逃げ場を奪うように身体を密着させられる。彼のアイスブルーの瞳は、私を羨望の眼差しで見つめる男たちを、今にも斬り捨てんばかりの殺気で射抜いていた。
「リュカ様……? 皆さん、ただ驚いているだけですわ」
「……不愉快だ。お前の美しさは、俺の離宮の奥だけに閉じ込めておけばよかった」
リュカ様は私の耳元で、他人に聞かせる気のない低い声で囁いた。
彼の纏う漆黒の外套が翻り、胸元の猛禽の紋章が周囲を威圧する。
「いいか、アイリス。一歩も俺から離れるな。お前を値踏みするような不埒な視線は、すべて俺が引き受ける。……お前はただ、俺の腕の中にだけいればいい」
独占欲。剥き出しの執着。
魔法のないこの世界で、一人の男が放つその強烈な熱量は、宿場の喧騒さえも凍りつかせるほどの重圧となっていた。
私は、彼の腕の中で小さく頷くことしかできなかった。
エドワード様は、私を「家の看板」として見せびらかしたがった。
けれどリュカ様は、私を「自分だけの宝」として世界から隠したがっている。
その歪なまでの愛しさが、今の私には何よりも心地よく、誇らしかった。
第42話をお読みいただきありがとうございます。
アイリスの美しさに嫉妬を隠さないリュカ様。その殺気すらも愛の形ですね。
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次話、そんな二人の前に、エドワード王子が放った「迎え」の騎士団が現れます。




