第43話:王都からの「迎え」
平然とアイリスを「回収」しようとする王都の騎士たち。
しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、愛する女を何よりも優先する北方の死神でした。
宿場町を抜けた先の街道、王都へと続く橋の手前で、私たちは行く手を阻まれた。
整然と列をなす十数騎の騎兵。その先頭で風に揺れているのは、見紛うはずもない王家の紋章旗――エドワード様の騎士団だった。
「辺境伯リュカ・ヴォルテール殿とお見受けする。我らはエドワード第一王子殿下の命を受け、アイリス・ランチェスター嬢を迎えに参った」
先頭の騎士が、馬上の高い位置から事務的な声を張り上げた。
「迎え」という言葉とは裏腹に、彼らの手は抜剣こそせぬものの、常に柄の近くに置かれている。魔法のないこの地において、それは明らかな武力による威圧だった。
私の身体が、反射的に強張る。
かつてその紋章の下、私は罪人同然に追放されたのだ。その記憶が、冷たい刺青のように胸の奥で疼く。
「……アイリス」
隣でリュカ様の声が低く響いた。
彼は迷いなく私を自分の背後へ引き寄せ、片腕で私の肩を抱きかかえるようにして隠した。彼が纏う漆黒の外套が、私を外界の視線から遮断する巨大な翼のように広がる。
「聞こえなかったか。我が主、エドワード殿下はアイリス嬢の『不貞の疑い』は晴れたと判断された。今すぐ彼女を引き渡し、王都へ送り届けよとのことだ」
「不貞の疑い、だと?」
リュカ様が、一歩前へ出た。
彼のアイスブルーの瞳は、もはや冷たさを通り越し、深淵のような暗い殺気を孕んでいる。魔法を使わぬ彼の歩みが、石畳を震わせるほどの重圧となって騎士たちに伝わったのか、最前列の馬たちが不安げに足掻いた。
「勝手に罪を着せ、勝手に許す。……王都の論理は、いつからこれほどまでに腐り果てた」
「なっ、貴公、殿下を愚弄するか!」
「愚弄しているのは貴様らだ。……この女性が誰の庇護下にあり、誰の魂を縫い止めているか、その曇った眼では見えんのか」
リュカ様の手が、腰の長剣の柄にかかった。
カチリ、と静寂の中に響いたその音は、死の宣告に等しかった。
「戻って主に伝えろ。アイリスは俺の命だ。……奪えると思うなら、この場で全滅してみせろ」
独占欲を超えた、狂気にも似た守護の意志。
私は彼の背中で、その逞しい肩越しに、王都の騎士たちが恐怖で後退するのを、ただ息を呑んで見つめていた。
第44話をお読みいただきありがとうございます。
「俺の命だ」というリュカ様の言葉の重み……!
権威を盾にする騎士団を、ただの殺気だけで圧倒する姿にスカッとします。
「リュカ様、もっとやって!」「アイリスを守る背中が頼もしい」と思ってくださった方は、
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次話、逃げ場を失った騎士団に対し、リュカ様が真の「力」を見せつけます。




