第40話:最後の晩餐、離宮にて
離宮での最後の晩餐、そして最後の夜。
アイリスとリュカは、過去を捨て、共に未来を掴み取るための「絶対の絆」を確かめ合います。
明日には、この白銀の離宮を発つ。
食堂の円卓には、豪奢な装飾こそないものの、この地で採れる最高の食材が並んでいた。だが、私たちが求めていたのは料理の味ではなく、重なり合う視線から伝わる「覚悟」だった。
「アイリス。ここでお前と出会い、共に過ごした日々を、俺は一生忘れん」
リュカ様が静かにグラスを置く。その手には、私が贈ったあの手袋は嵌められていない。今はただ、生身の大きな掌が、テーブルの上で私の手をしっかりと包み込んでいる。
「……はい。雨の中で拾われたあの日から、私の世界は塗り替えられましたわ。リュカ様、貴方に救われ、愛されたことが、私の真実です」
魔法が使えないこの地で、二人の絆を繋ぎ止めるのは、積み重ねてきた言葉と、肌で感じた温もりだけ。
食事を終え、私たちはどちらからともなく暖炉の前に移動した。薪が燃え尽きようとする微かな光の中で、リュカ様が私の腰を引き寄せ、逃れようのないほど深く抱きしめる。
「王都へ行けば、お前を汚そうとする者たちが群がるだろう。……だが、忘れるな。お前の身体に、魂に、深く刻み込まれているのは、俺の熱だけだということを」
「……分かっておりますわ。私のこの髪も、指先も、心も……すべては貴方のものです、リュカ様」
独占欲に満ちた彼の吐息が、私の項を熱く濡らす。
彼は私の背中に回した手に力を込め、アメジストのドレス越しでも伝わるほどの激しい鼓動を私に叩きつけてくる。
私たちは夜の静寂の中、誓い合うように唇を重ねた。
それは、過去の痛みをすべて焼き尽くし、新しい運命へと向かうための、烈火のような口づけだった。
かつて孤独だった離宮の夜。
今は、隣にいる男の体温だけが、私の世界のすべてを埋め尽くしている。
私たちは夜が明けるまで、一睡もすることなく、互いの存在を深く、狂おしいほどに確かめ合っていた。
――夜明けの光が、雪原を白く染め始める。
私はもう、振り返らない。
リュカ様と共に、奪われたすべてを取り戻すための、そして真実の愛を証明するための戦いへと、今、踏み出す。
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次話、第41話。ついに王都へ到着したアイリスの前に、かつての因縁が立ちはだかります。




