第27話:騎士の瞳が揺れる時
酒の熱に溶かされた、騎士の理性。
普段は見せないリュカの弱さと、アイリスへの強すぎる執着が描かれます。
その夜、離宮の談話室には、北方の厳しい冬を越えるための強い蒸留酒の香りが漂っていた。
領主としての会食を終えて戻ってきたリュカ様は、いつもの完璧な軍礼装を少し崩し、暖炉の前の長椅子に深く身を沈めていた。
「……アイリスか」
私が部屋に入ると、彼はゆっくりと顔を上げた。
いつもは氷のように澄んでいるアイスブルーの瞳が、今は酒の熱に潤み、微かに揺れている。その視線に射抜かれた瞬間、私の肌に粟立つような熱が走った。
「リュカ様、お加減が……。お水を持ってまいりますわ」
「……いや、必要ない。ここにいろ」
彼が私の手首を掴み、引き寄せた。
勢い余って、私は彼の膝の上へと崩れ落ちる。
魔法が使えないこの地で、酒は時に人の理性を溶かし、本能だけを暴き出す。至近距離から注がれる彼の吐息は、普段よりもずっと熱く、甘い酒の香りがした。
「リュカ様……、酔っていらっしゃいますわ」
「……酔わねば、言えんこともある」
リュカ様は私の腰に腕を回し、逃げられないように抱き寄せた。彼の額が、私の首筋に預けられる。
いつもは私を守り導く強靭な男の、初めて見せる「甘え」のような仕草。
「アイリス……。お前がそのドレスを完成させるのが、怖くてならない」
「え……?」
「完成すれば、お前は王都へ行く。あいつらの前に立つ。……俺の知らないお前を、また誰かに見せつけるのか? 誰かに、奪われる隙を与えるのか……?」
その声は、震えていた。
独占欲。そして、私を失うことへの剥き出しの恐怖。
リュカ様は私の髪に顔を埋め、深く、その香りを吸い込む。
「いっそ、針も布もすべて焼き捨ててしまえたらいいのに。そうすれば、お前は一生、俺だけのものだ……」
傲慢で、けれどあまりにも切実な告白。
私は、彼の背中にそっと手を回した。鍛え上げられた身体の硬さが、今の彼の心の脆さを際立たせている。
「リュカ様……。私の針は、貴方の隣に胸を張って立つために動いているのですわ。……私は、どこへも行きません」
私が囁くと、リュカ様は顔を上げ、私の唇を貪るように見つめた。
揺れる瞳。その奥にあるのは、冷徹な騎士ではなく、一人の女を狂おしいほどに愛する、ただの男の熱だった。
夜の静寂の中、薪が爆ぜる音だけが二人の重なる鼓動を急き立てていた。
第27話をお読みいただきありがとうございます。
酔ったリュカ様の「甘えと独占欲」のコンボ……いかがでしたでしょうか。
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次話、アイリスがドレスに忍ばせる「秘密のメッセージ」のエピソードをお届けします。




