第24話:秘密の試着室
ついに自分の姿を直視したアイリス。
しかし、彼女を最も美しく照らしていたのは、鏡ではなく、背後に立つ男の視線でした。
それは、離宮の最奥にある、普段は使われていない小部屋だった。
厚いカーテンで光を遮られた室内には、リュカ様がわざわざ王都から取り寄せさせたという、巨大な姿見が置かれていた。
「さあ、着てみろ。……俺が、お前の姿を最初に見る」
リュカ様の言葉に、私は震える指で自ら仕立てたドレスの背を合わせた。
深いアメジスト色のベルベット。かつて捨てようとしたあの銀糸のレースが、首元で誇らしげに輝いている。魔法のないこの世界で、これほどまでに気高く、これほどまでに「私」を体現した衣服は他にない。
「……あ。……これが、私……?」
姿見に映ったのは、絶望に沈んでいたあの日の自分ではなかった。
凛と伸びた背筋。リュカ様が注いでくれた愛情と信頼によって、内側から発光するような美しさを得た、一人の女としての姿。
背後で、リュカ様が静かに近づいてくる。
鏡越しに視線が重なり、私は息を呑んだ。彼の手が、仮縫いのピンが残る私の肩に、ゆっくりと、けれど逃れようのない力強さで置かれる。
「……言ったはずだ。お前は、王都のどの飾り人形よりも美しいと」
リュカ様の低い声が、耳朶を熱く濡らす。
彼は鏡の中に映る私の瞳――あのアメジストの輝きを、捕食者のような熱を孕んだ目で見つめていた。
「このドレスを、誰にも見せたくない。このまま、俺の目の届く場所だけに閉じ込めておきたい……」
独占欲。剥き出しの執着。
リュカ様の手が、ドレスの腰のラインに沿って滑り落ちる。厚手のベルベット越しでも、彼の掌の熱が、私の肌を焼くように伝わってきた。
王都で着せられていた「王妃としての鎧」ではなく、これは私の魂を包む「翼」なのだと、彼の触球が教えてくれる。
「……リュカ様。私を……見ていてください」
私は鏡の中の彼を見つめ返し、自らその手に体重を預けた。
狭い試着室、二人だけの吐息。
魔法が使えないこの地で、重なり合う影だけが、私たちの真実を雄弁に語っていた。
「……ああ。片時も、逸らさない」
リュカ様の指が私の顎を持ち上げ、鏡の中の私たちが、ゆっくりと重なり合っていく。
完成間近のドレスが、私たちの昂揚に合わせて、甘い絹の擦れる音を立てた。
第24話をお読みいただきありがとうございます。
鏡越しの濃厚なやり取り……リュカ様の独占欲が限界突破しそうです。
「二人の密着感にドキドキする」「ドレスの描写が本当に綺麗」と思ってくださった方は、
ぜひ【★★★★★】評価やブックマークをいただけると、大変執筆の励みになります!
次話、北方の冬を象徴する、幻想的な「湖畔のスケート」回をお届けします。




